~水牢~

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足取りは明らかに重い。私は濡れた身体を乾かすべく、更衣室へ向かった。 その道中、ちょっとばかりの歓声と大半を占めるどよめきが上がる。 ……化け物。 一言ぽつりと誰かが呟いたそれは、私の耳に特に際立って聞こえた。 なんなんだろうか。 泳ぐのがちょっと早いから化け物? 息が長く続くから化け物? 自分より優れたものは、化け物なのか? とんだ傲慢な生き物だ。 私は声のしたほうを睨む。 その時私を見ていた幾人かが、気まずそうに目を逸らした。 癪だ。私は乱雑に更衣室のドアを閉めた。 更衣室の中には、もちろん誰もいない。 私は見えない重荷を投げ捨てて、壁にもたれかかった。 四肢に心地好い痛みが残る。濡れた身体はほどよく発汗しているらしく、疲労が一度に押し寄せた。 息をつき、渇いた喉を潤そうと水道の蛇口を捻る。 ざああ、ぴちゃっぴちゃっ。 私は、自らの渇きも忘れ、しばらく滴る水を眺めていた。 ざああ、ぴちゃっぴちゃっ。 流れる水に、私は手を触れた。 飛沫は手に反射して跳ね、辺りを濡らす。
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