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「あのさ、帰っていい?」
門を一歩入った所でラシルが言い出した。
「いいわけないだろ」
トラスが思いっきり渋面で言い返した。
「だって、兄さん一人で充分じゃない?」
「元はと言えば、お前に来た依頼だろっ」
「そ、そうだけどっ、一人じゃ無理だって思ったから、相談したじゃん」
「結局、長の命は下ってる、今更断るわけにいかないだろが」
「そうなんだけどっ、兄さんの方がうわ手なんだし、ここはやっぱり、ね?」
ラシルはクルッと向きを変えて逃げ出そうとした。
「こらっ、逃げるな」
「だ~か~ら~、ヤダってっ」
トラスに襟首を捕まれてラシルはジタバタした。
〈兄弟でじゃれるのは、おおいに結構なんだが、何故、私まで?〉
かなり冷静な言葉が割って入った。
「カルンなら、大丈夫かなぁ~て」
〈その確信は何処からくるんだ?〉
「だって、同類……」
ラシルは口の中でゴニョゴニョと誤魔化した。
〈ふうん〉
カルンが真顔でラシルを見上げた。何を言おうとしたか解っているのだ。
〈一緒にするな〉
「してないけどっ」
〈してるだろ〉
「うっ」
滅多に見られないカルンの怒った視線にラシルは首を竦めた。普段の物腰が柔らかいだけに、一旦怒るとものすごく冷たい固い表情になるのだ。
「とにかくこの手の事の勘は、お前の方が鋭敏なんだから諦めろ」
「だから余計イヤなのに…」
「さ、中に入るぞ」
と、トラスは目の前の扉の取手に手をかけた。
「嫌だよ~」
ラシルはどこまでも往生際が悪かった。
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