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「話を訊いたら、難産で前の日から苦しんでるって言うから、館に連絡するより自分で診た方が早いと思ったんだけど、村人が信用してくれなくて、説得するのが大変だった」
と、その時のことを思い出して苦笑する。
二つの属性を宿す魔法使いが現存していることはこの国の住人で知らぬ者など居ないだろう。
ただ、たった一人しか居ない、伝説もしくは寓話のように寝物語に語られる現実味のない話として認知されているのも事実だ。
そんな魔法使いが辺境の小さな村を訪れるなど、誰が想像するだろう。しかも本人の見た目が、とても齢五百過ぎには見えないから信用されるはずがないと解る。
「仕方ないから、闇魔法を使って見せて、やっと家に案内してもらえたんだ。状況が予想より深刻で母親は意識がなかった」
そこでトラフとラカスが息をついた。二人にはそれがどれ程切迫した状況だったか理解できたからだ。
母親が息めないということは、子どもも産まれてくるための力が足りないということだ。そのままで子どもの命が危うい、最悪、母子ともに冥府に送り出す羽目になるだろうと予想がついた。
「子どもは産道に入り込んでたけど、頭がまだ出てなくて、直接引き出すことも出来なかった。それで産道を拡げて子どもを取り出したんだ。可愛い女の子だった」
ラシルが両手で赤子を抱くような仕草をして微笑んだ。
「それで、後処置をしようとしたら、様子がおかしくて、診立てをしたら、お腹の中にもう一人居て…仕方ないから臍帯分だけお腹を切って、転移させたら、男の子だった。ものすごい元気で泣き声が耳に痛いぐらいだったな」
と、苦笑しながら、左耳に指を突っ込んで見せた。
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