420人が本棚に入れています
本棚に追加
〈いいから、やってみろ〉
「イヤだってっ、変なもんが視えたら、どうすんのさっ?」
〈私と同類なら別に構わないだろ〉
さらっと皮肉を言われて、ラシルは泣きそうだった。一旦怒ると意外に尾を引くのは解っていたはずなのに、口を滑らせた自分が悪い、だがしかし、視たくないものは視たくない。とても感覚を拡げることなど頷けなかった。
「カルン殿」
トラスが苦笑いしつつ、口を開いた。
「あまり苛めないでやってくれませんか。ラシルには後でしっかり罰を課しますから」
〈…苛めて…るわけではないが…ラシルなら話が早い〉
トラスの言い分に若干の不満を示しつつ、カルンは言った。
「確かに私では存在を感知するのがせいぜいですね。相手の意図までは分からない」
ラシルに若干劣るものの、トラスにも同じ感覚が備わっているのだ。
闇魔法使いの特徴でもあるのだが、長の直系である二人は、他の純血よりもはっきりと受け継いでいた。ただ、感覚だけで把握できるラシルに対して、トラスは魔法を加えることで補うことが出来るのだ。
トラスは杖を握り直すと術文を唱え、感覚を拡げた。目を瞑り、感覚が捉えたものを冷静に解析していく。
「気配はひとつだけですね。何やら、かなりお怒りのご様子ですが」
〈私たちが入り込んだのが気にくわない、と言ったところか〉
茶目っ気を含んだトラスの言葉に対して、カルンはさらっと流した。
横で会話を聞いていたラシルは二人の度胸の座りように、唖然とするよりなかった。
感覚を閉じているにも関わらず、感応してくるそれは、とても冗談が通じる相手とは思えなかった。出来ればお近づきにならずに帰りたかった。
「地下に濃い気配がありますから、行ってみますか?」
〈そうしよう〉
またもや二人は躊躇いもせずに廊下の奥に向かって歩き出した。
「…ウソォ~」
置いてけぼりをくらうのは勘弁だったが、ついていく度胸もラシルには無かった。
「か、帰ろうよ~」
と言うラシルのか細い声は、二人にしっかりとシカトされた。
「…」
もはや何を言っても無駄と悟って、仕方なく二人の後を追った。いざとなったらサッサッとトンズラしようと心の中で固く誓った。
最初のコメントを投稿しよう!