廃墟

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〈いいから、やってみろ〉 「イヤだってっ、変なもんが視えたら、どうすんのさっ?」 〈私と同類なら別に構わないだろ〉 さらっと皮肉を言われて、ラシルは泣きそうだった。一旦怒ると意外に尾を引くのは解っていたはずなのに、口を滑らせた自分が悪い、だがしかし、視たくないものは視たくない。とても感覚を拡げることなど頷けなかった。 「カルン殿」 トラスが苦笑いしつつ、口を開いた。 「あまり苛めないでやってくれませんか。ラシルには後でしっかり罰を課しますから」 〈…苛めて…るわけではないが…ラシルなら話が早い〉 トラスの言い分に若干の不満を示しつつ、カルンは言った。 「確かに私では存在を感知するのがせいぜいですね。相手の意図までは分からない」 ラシルに若干劣るものの、トラスにも同じ感覚が備わっているのだ。 闇魔法使いの特徴でもあるのだが、長の直系である二人は、他の純血よりもはっきりと受け継いでいた。ただ、感覚だけで把握できるラシルに対して、トラスは魔法を加えることで補うことが出来るのだ。 トラスは杖を握り直すと術文を唱え、感覚を拡げた。目を瞑り、感覚が捉えたものを冷静に解析していく。 「気配はひとつだけですね。何やら、かなりお怒りのご様子ですが」 〈私たちが入り込んだのが気にくわない、と言ったところか〉 茶目っ気を含んだトラスの言葉に対して、カルンはさらっと流した。 横で会話を聞いていたラシルは二人の度胸の座りように、唖然とするよりなかった。 感覚を閉じているにも関わらず、感応してくるそれは、とても冗談が通じる相手とは思えなかった。出来ればお近づきにならずに帰りたかった。 「地下に濃い気配がありますから、行ってみますか?」 〈そうしよう〉 またもや二人は躊躇いもせずに廊下の奥に向かって歩き出した。 「…ウソォ~」 置いてけぼりをくらうのは勘弁だったが、ついていく度胸もラシルには無かった。 「か、帰ろうよ~」 と言うラシルのか細い声は、二人にしっかりとシカトされた。 「…」 もはや何を言っても無駄と悟って、仕方なく二人の後を追った。いざとなったらサッサッとトンズラしようと心の中で固く誓った。
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