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電車で30分。
僕が学校のある町で下りるまでの短い間。
他愛のない会話をし続ける僕。
それを嫌な顔一つしないで聞き入れてくれる曽良さん。
そんな時間が僕は大好きで、曽良さんの事をどんどん好きになっていた。
でも、この恋が実らない事は知っていた。
僕が男だから…それも理由の一つ。
最大の理由は曽良さんは既に既婚者であることだった。
奥さんはとても美人で、気配りのよく出来る素敵な女性だ。
曽良さんが惚れるのも良くわかる。
なのに僕の心にはいつもモヤモヤしたなにかが蠢いている。
曽良さんともっと早く出会っていれば…
僕が女性だったら…
僕がもっと早く生まれてれば…
気付いた時にはもう遅かった。
僕は後先考えず朝のホームで曽良さんに告白をしていた。
いつもは賑わうホームも今日はどことなく静かに感じた。
返事は明日でいい、言おうとした瞬間答えは返ってきた。勿論答えは
───NO───
僕は愕然として俯いたまま涙を流した。
曽良さんは今どんな気持ちですか?
わからない……
わからないのにわかるような気になってる自分がみっともない。
曽良さんは一つ呼吸をおいて僕の横を通り過ぎる。
そして通り過ぎる瞬間囁いた。
「明日からは一人で行きなさい」
それは冷静かつ直球に僕の心を貫いた。
-嫌われた…僕があんな事を言ったから?
僕が告白することで、奥さんへの侮辱だったから?
どちらにせよ曽良さんがOKするわけがなかったんだ-
僕は曽良さんの背中を見つめたまま、その日は学校をサボった。
そして考えた。
曽良さんはどうして振り向いてくれないのか。
どうして僕を愛してくれないのか。
そう、答えは結局一つなのだ。
あの奥さん....
あいつが曽良さんの本音を食い止めている。
あいつさへいなくなれば曽良さんはきっと僕に心を開いてくれる。
だって曽良さんは僕の事がきっと好きなんだから…………
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