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情乳
屋敷の女官や侍女は皆が涙し…安達の従者の各々が無慈悲な鎌倉殿に怒りを感じていました。
安達の屋敷の者は、北の方様が鎌倉殿に赤子の助命を嘆願された事実を知っていたのです。
鎌倉殿は北の方様の意を退け安達殿に赤子の始末を委ねたのでした。
従者や侍女は鎌倉殿の報せを聞き憤りを感じていたのです。
静御前と磯禅師が鎌倉に呼ばれ…安達の屋敷に長く留められ二人と寝食を共にしていた侍女や従者もまた、哀れな親子を思いやっていたのです。
皆が皆、悲しみに打ち振るえていたのでした…
安達の従者達は躊躇いながら、静御前の腕を取り脚を引っ張り上げようとします。
御前は鎌倉殿を罵倒し必死に暴れます。
近寄った従者を爪で引っ掻き回し従者の腕に噛みつき、脚で辺り構わず蹴り回しました。
静御前の着衣ははだけて裸身が激しくくねります。
御前の爪は剥がれ血が噴き出し御前に腕を噛みつかれ…急所を蹴られた従者達はのた打ちまわります。
出産後間もない御前の股間からは止めどなく出血があり…畳には血だまりができていました。
御前の大きく張った乳は激しく揺れ…侍女達は、悲しい御前の血塗れの裸姿を見て慟哭するのでした。
静御前の激しい抵抗も多勢に無勢でしかなく大の字に四肢を押さえられ…磯禅師は赤子を取り上げます。
御前の悲痛な叫びが屋敷中に虚しく木霊しました。
磯禅師は赤子に白い布切れを丁寧に巻き付け赤子を抱きかかえて優しくあやします。
赤子が無邪気に手足を踏ん張り、泣く姿が磯禅師の心をかき乱すのです。
磯禅師は無念の形相で咽び泣きつつ、待ち構えている安達殿に赤子を渡します。
床に押さえつけられた静御前は泣きじゃくりながら母である磯禅師と安達殿に縋ります…
「母上、赤子に乳を… 安達殿に…静のせめてもの願い、お聞き入れ下さいまし…赤子に乳を…御慈悲でございます!
安達殿、赤子と最後の別れをしとうございます。
赤子に静の乳を吸わせて下さいまし…
赤子に罪はございませぬ… どうかお願いでございます…
赤子に乳を…赤子に乳を…赤子に乳を…
お願いでございます…安達殿…」
静御前の悲痛な訴えに…安達殿は狼狽えます。
しかし磯禅師は涙をこらえ安達殿の目を見据えてキッパリと首を横に振ると…
毅然とした表情で抱きかかえた赤子を安達殿に手渡そうとします。
安達殿は真剣な眼差しでコクリと頷き赤子を受け取るのでした。
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