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その後は、特に描写するに値しないカップル二組によるただの惚け合いだった。
宅配で注文した料理を四人で囲み、あたしたちのここがすごいだの、私たちはここがすごいだの、女二人でよく分からない意地を張り合い、男二人がそれに振り回される。
本当にくだらない。
中身がスカスカの雑談。
でも、そんなことではしゃげるこの雰囲気が、あたしはたまらなく好きだった。
特別じゃなくても、自然と笑いの生まれるこの空気。
その空気を吸っていると、体が一番奥底から震えるのが分かる。
そして、あたしはこの震えの正体を知っている。
──これが、あたしの手に入れた幸せだ。
苦しくなるほどの幸福感。
贅沢すぎて、なんだか可笑しかった。
「沙耶、聞いてるの?」
「聞いてるわよ」
柚希の言葉に適当に相づちを打ちつつ、この幸せを一人でこっそりと噛みしめる。
気を抜くとニヤけそうで必死だ。
だからあたしは、隣に座る夏樹に意味もなくもたれかかる。
たまには、分かりやすく甘えてもいいよね。
夏樹と目が合う。
もう堪えるのも限界。
「夏樹」
「ん?」
「大好きよ」
あっさりと言ってやった。
夏樹の目が点になる。
しかし、それもほんの一瞬。
すぐに点は線になり、大好きだよ、とあたしの手を引き寄せてギュッと握りしめる。
甘い痺れが全身に走り、それがまた新たな幸せを生む。
こいつは本当に。もう仕方なくなんだからね。
心の内でツンを見せつつも、実際はデレデレな顔で夏樹とキスをした。
またこの二人は……という柚希の呟きもあたしたちらしくて、また新たな幸せがあたしを包み込む──
おわり
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