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しばらく経って、幾分か元気を取り戻したお兄ちゃんにナビをしてもらって、無事一人暮らしをしている彼女さんのアパートまで辿り着いた。
私は彼女さんの部屋の前まで来ると、深呼吸をした後、チャイムを鳴らした。
「…………はい」
しばらく待つと、チェーンをかけたドアがほんの少しだけ開いた。
「どちら様ですか?」
「私、岩瀬(いわせ)夏菜と言います。……岩瀬夏樹の妹です。開けてもらえませんか?」
「夏樹の!?」
ドアが勢いよく閉まったかと思ったら、すぐに全開された。
「貴女が夏樹の」
「妹の夏菜です。初めまして」
私が頭を下げると、その場を微妙な空気が支配した。
「初めまして。貴女一人で来たの? どうしてここが……」
「一人じゃありません。お兄ちゃんと一緒です」
驚く彼女さんの目の前にパペットのお兄ちゃんを突き出す。
沈黙。
訝しげな彼女さんを無視して、私はパペットを突き出したまま、ただ待った。
「……久しぶり」
ようやくお兄ちゃんが重い口を開いた。
「長い間、ありがとう。………………ごめんな、唯依(ゆい)」
お兄ちゃんの言葉に合わせて、パペットの口を動かす。
お兄ちゃんの気持ち、彼女さんに伝わったかな?
面食らった彼女さんは事態を飲み込むと、寂しそうな微笑を浮かべた。
「久しぶり。夏樹」
パペットに優しく語りかける彼女さんの姿を、お兄ちゃんはただ静かに見つめていた。
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