旅の目的地

4/4
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
私は玄関先でお兄ちゃんが借りっぱなしだったCDを返すと、「上がってお茶でも」という彼女さんの申し出を断り、かつてお兄ちゃんが頻繁に来たであろうアパートをあとにした。 彼女さんのアパートが見えなくなってから、これまで黙りこくっていたお兄ちゃんが囁くように言った。 「……ありがとう。夏菜」 私は何も言わなかった。 お兄ちゃんもそれ以上何も言わなかった。 だけど、分かっていた。 私が、お兄ちゃんが、何を伝えたかったのか。 そして、それぞれの旅の終着点が――。  
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!