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私は玄関先でお兄ちゃんが借りっぱなしだったCDを返すと、「上がってお茶でも」という彼女さんの申し出を断り、かつてお兄ちゃんが頻繁に来たであろうアパートをあとにした。
彼女さんのアパートが見えなくなってから、これまで黙りこくっていたお兄ちゃんが囁くように言った。
「……ありがとう。夏菜」
私は何も言わなかった。
お兄ちゃんもそれ以上何も言わなかった。
だけど、分かっていた。
私が、お兄ちゃんが、何を伝えたかったのか。
そして、それぞれの旅の終着点が――。
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