【地獄に近き楽園】

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   とある日常風景を紹介しよう。  一つの密室の男女。  教卓には教師。並ぶ机には生徒達の姿がある。  頭から獣の耳が生えた者が居れば、異様に小柄な者も居る。彼等は皆、各々が種族が異なっているのだ。  春の昼下りの陽気に誘われて、少年は大きな欠伸を噛み殺した。教卓から、教師のジロリとした殺意の籠った熱視線を向けられ、慌てて苦笑い。  講義の内容は、この世界の成り立ちと、彼等【グリモア使い候補生】に深く関係する。拷問じみた座学に、白髪頭に左目を縫われたパンキーな少年……テーゼ=オルタナティヴハートは、やはり苦笑いを浮かべて窓の外に目をやった。  春の昼下りの陽気が眠気を誘う中、教師の淡々とした講義が続く。  人間を始めとした様々な多種多様な生物が息づく地上世界は、幾つかの大陸に、幾つかの島々から成る。  世界は、人類が最も繁栄していたが、人類は生態系の頂点ではない。何時からか、人類の数がある程度膨れ上がった時期から、奇妙な生物が世界各地で次々と発見されるようになる。  地上世界の生物に類似しているモノから、見たこともない生態の生物達は、人類よりも強い肉体を持ち、人類よりも強い生命力を持ち、個体によっては人類よりも高い知識を持っていた。  人類はその生き物を“悪魔”と名付けた。  悪魔は、人類を主な主食とし、疫病が如く世界に蔓延し、次々と人類はその数を減らしていったが、人類はただ逃げ隠れるだけではなった。  悪魔に対抗し得る力を模索し、一つの可能性と成果を示した。  それが、悪魔専門機関・アルカナと、グリモア使いである。  悪魔専門機関・アルカナは対・悪魔戦闘部隊、グリモア使いを派遣する組織…世界各地に支部が点在し、本部はアトラシア大陸にある。  悪魔の出現によって、世界の文明基準は一度大きく崩れる。  アトラシア大陸は、その中でも上位に位置する文明レベルを持っていた。  これは、グリモア使い達の装備を大きく左右する為かなり重要な問題だ。  アルカナは、主に人類最高レベルの文明を持つソロテシア大陸の技術と、エルダジア島の人類最高レベルの刀剣生産技術の恩恵を受けていた。  グリモア使い達の防具や、重火器等、携帯端末機や、携帯型応急医療器具はソロテシア大陸のもの。  特に、軍事国家ザイツェフ機関の技術水準の高さは、目を見張るものがあった。  
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