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彼女の名前は、上田祐樹(ウエダユウキ)と言った。
私と、同じ年だった。
こんな時間になんであんな所に居たのかを聞くと、笑って「走ってた。」と言った。
笑っていたのに、クールな雰囲気は変わらない。
「あんたの名前は?」
「私は、吉原舞。上田さんと同じ年だよ。」
「そっか。年下かと思った。」
「私も。年上かと思った。」
そんなことを話しながら、歩いていると、「ここ。」と、彼女が小さなアパートを指さした。
若い女の子が一人で住めるようなアパートではない、古くて、暗い外観。
長くて急な階段を上ると左側に扉が3つ、並んでる。
彼女の部屋は、その一番暗い奥の部屋だった。
彼女がその鍵をおもむろにポケットから出して、古い扉の鍵穴に刺して回す。
淡々とした動作だが、慣れている手つきは、この場所で、長く住んでる事を思わせる。
中に入ると、シンプルなモノばかりでキレイに整頓され、外観を想像させないほどにキレイな部屋だった。
真っ白な壁には何もない。家具は必要なものだけで、色も白と黒で統一されていた。
「キレイにしてるね。」
「え?そぅ?あったかい飲み物作るから、待ってて。」
さっきの出来事が夢のように思えて、ソファーの上でぼぅっとしてしまう。彼女の優しい声が聞こえるけれど、私は返事をせずにいた。
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