【吉原舞】

6/8
前へ
/142ページ
次へ
彼女の名前は、上田祐樹(ウエダユウキ)と言った。 私と、同じ年だった。 こんな時間になんであんな所に居たのかを聞くと、笑って「走ってた。」と言った。 笑っていたのに、クールな雰囲気は変わらない。 「あんたの名前は?」 「私は、吉原舞。上田さんと同じ年だよ。」 「そっか。年下かと思った。」 「私も。年上かと思った。」 そんなことを話しながら、歩いていると、「ここ。」と、彼女が小さなアパートを指さした。 若い女の子が一人で住めるようなアパートではない、古くて、暗い外観。 長くて急な階段を上ると左側に扉が3つ、並んでる。 彼女の部屋は、その一番暗い奥の部屋だった。 彼女がその鍵をおもむろにポケットから出して、古い扉の鍵穴に刺して回す。 淡々とした動作だが、慣れている手つきは、この場所で、長く住んでる事を思わせる。 中に入ると、シンプルなモノばかりでキレイに整頓され、外観を想像させないほどにキレイな部屋だった。 真っ白な壁には何もない。家具は必要なものだけで、色も白と黒で統一されていた。 「キレイにしてるね。」 「え?そぅ?あったかい飲み物作るから、待ってて。」 さっきの出来事が夢のように思えて、ソファーの上でぼぅっとしてしまう。彼女の優しい声が聞こえるけれど、私は返事をせずにいた。
/142ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加