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男が去ると、祐樹はゆっくり起き上がって、ベッドの部屋の電気をつけた。
ベッドの部屋とリビングは引き戸で仕切られているだけで、戸を開けておくと、ひとつの部屋のようになる。
私の足元に光がこぼれ、ぼやぼやと影が動くのが分かった。
とっさに私は寝たフリをして、祐樹の動きを耳をすませて、感じていた。
祐樹は私のそばにそっと近くと、「まだ寝てんのかよ?」と小さな声で言った。
それから離れて、どうやらキッチンへ行き、なにかしているようだ。
フライパンで何か焼く音とともに、いい匂いが立ち込めた。
私はタイミングを逃してしまい、いつ起きるか、いつ起きるかと一人で考えていた。
そんな中でしばらくすると、彼女は戻ってきた。
リビングの明かりをつけ、「え~っと…吉原だっけ?起きろ~!」
と、私の肩をゆする。
「ん…ンン……」
わざとらしく今起きたみたいに装って、私はまた、祐樹の姿と再会した。
「食べる?」
祐樹は、サラダにベーコンと目玉焼き、そしてトーストを私の前に置くと、「食べな?」と勧めてくれた。
私は申し訳ない気持ちになった。
助けてもらったのにお礼も言わず、その上泊まらせてもらった上に、食事まで。
「あ~…あの、ありがとう…祐樹。」
「今日だけだ。」そう言う彼女はキレイな顔立ちをくしゃっとさせて、笑うのだ。
そんな顔を見ると、とても初対面とは思えない、不思議な感覚が、私の心をくすぐり、安心させるのが分かった。
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