《彼女の自殺》

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 僕は駆け出しの記者だ。 これといって課せられた事件も、記事にできるような裏情報も、何も得られない日々を過ごしていた。 歩いても歩いても、ネタもない新人の記者の僕に、交渉して情報をくれる者は現れやしない。 自分一人で地道に調べていくしかないのだ。 毎朝8時に出勤する、その前に駅のそばにあるお気に入りのカフェでコーヒーを飲むのが日課だった。今日も同じ時間に同じ席に座り、ノートパソコンを開いた。 今日の新聞の記事に目を通す。 この世界は見事に平和だ。 先輩たちはアイドルの過去を暴露する記事を書いたり、大手企業の社長の脱税疑惑など、飽きもしないで同じような記事をあげている。毎週、こんな記事を見ては、ため息が尽きない。 僕はそうはなりたくなかった。 やりたい事も夢も、あまりなく、親戚のつてで入った会社だが、おざなりの仕事はしたくない。何か、皆が知らない世界で生きている人間の、生き様を記事にしたい。 先輩たちの記事を一通り読み終えると、コーヒーを飲み干し、ノートパソコンをしまい、僕はまた満員の電車に乗り込んだ。 狭い路地の古いビルの一角に、僕の会社はある。 2人ほどしか乗れない狭いエレベーターに乗り、6階のボタンを押す。 扉が開き、すぐ目の前にガラス扉があり、重いその扉を開くと、タバコ臭いオフィスに記者たちがずらりと並び、皆目をギラギラさせてパソコンの前に座っていた。 陽の当たらない、端っこの机に座り、僕はまたノートパソコンを開いた。 「桐島。」 大きな窓際に座る、先輩の一人が僕を呼んだ。 「お前、昨日頼んだ資料調べてまとめたか?」 「はい、調べてまとめました。………ちょっと待って下さい…。」 「あぁ……違うんだ。その資料もういらねー。」 「はい?」 「某大女優の結婚で、記事が差し替えになった。その企画も却下されて、いらなくなった。」 「…… そうですか。」 そう言って諦めた表情をすると、先輩に罵られた。 僕は何度も同じことをされてる。これって実はわざとなんじゃないかとさえ思う。 朝から晩まで歩いて、アンケートしたのに、結局いつのものパターンで僕の努力が一括削除されるんだ。 そんな仕事が続き僕は半ば憂鬱になっていた。
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