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「無い、無い!」
ロキは慌てていた。
「師匠、無いんです!俺、今日誕生日、なのに」
「…無いはずはないだろう」
めったに慌てないロキのあわてぶりを見て、師匠も少し動揺している。
「本当に無いのか」
「ありません、見て下さい」
ロキは今日の日を心待ちにしていた。今日の日のために、いかなる努力も重ねてきた。
なのに。
「何で、無いんだ…」
師匠が呻く。
ロキは自分の右手の甲を、じっと見つめる。
ここには、あるはずのものが無かった。
それは『しるし』である。
この国の民が皆持っている『しるし』である。
この国の民は15になる誕生日、右手の甲に痣が出てくる。
神が人を選ぶしるしだ、と言い伝えられてきたその痣は、占いによって見定められ、その結果、騎士、農民、職人、商人に分けられ、皆対等に、それぞれが国王に仕える。
痣の出方は、その人の能力により変わると言われているため、人々は必死にそれぞれの腕を磨く。もちろんロキも。
ロキは騎士になりたかった。
国王を、国を、命を張ってお守りする役目を、授かりたかった。
どんな学問も、修行も必死で身に着けた。この辺りでロキにかなうものは1人としていなかった。師匠も含めて、である。
なのに、そのしるしが、ない。
他に痣が無い者はいない。
痣が無い者は国外追放になって、この国には残っていないからだ。歴史上、20年に1人の割合だと言われている。
「…占いの先生のところへ行ってきます」
ロキは何を考えて良いかもわからなくなって、それだけやっと言って、師匠の家を飛び出した。
…親になんと言おう、兄弟に、友に。
僅かな希望を持って行った占い師の家では、ただ、静かに「国王に謁見してこい」と言われた。「私では判断する事ができないから」と。
今度こそ、自分の運命は決まった。
きっと国王に、国外追放を言い渡されるのだ。
重い、重い気持ちで、ロキは師匠の所へ戻り、少しの荷物をまとめた。
「家族には、しばらく修行で出掛けると伝えて下さい」
そう言い残すと、ロキは黙って手を握ってくれた師匠を残し、国王の住む、高い城を目指した。
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