0人が本棚に入れています
本棚に追加
「顔を上げよ」
国王は優しい声でそう言った。
国王は、民から信頼が厚く、国で最も徳の高い人物である。
ロキは、もうこの方にお仕えできないのだと考えると、辛くて死にそうだった。
「よく来たな、名は」
「ロキと申します。姓はハイクライマー」
「『高きに登るもの』か。よい姓を受けたのだな」
国王は満足げに笑う。
「ロキ、付いて来い」
ロキは食事をする大広間に通された。
そこには小さいテーブルが一つ。
「長いテーブルもあるのだがな、今は一緒に食事をする者もないし、遠いと話しづらい。仰々しいのは嫌なのだよ」
と、国王が快活に笑う。
国王は普段、食事をするときには、身近な者から近くに座らせるよう、細長いテーブルを使う。奇襲などを防ぐためである。
このような小さいテーブルで、ここまで近くで食事ができるということは、心からの信頼の証である。
ロキは、国王の心の深さに、ますます辛い気持ちになる。
「ロキ、どうした」
「私には、しるしがありません。国外追放になる身です。それにも関わらず、こんなに近くに寄せて下さる」
ロキはむせび泣いた。
国王は少し間を空けて言う。
「ロキ、そなたは明日からこの国におれないことを知っているのだな」
はい、とロキは頷く。
「では、それが10年ということは?」
ロキは顔を上げた。
「いいえ…そんな」
「真実とは、時として見えているようでそうでないことがある」
国王はゆっくりと立ち上がると、訳の分からないロキの前にゆっくりと右手を突き出した。
最初のコメントを投稿しよう!