お題…無印

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「顔を上げよ」 国王は優しい声でそう言った。 国王は、民から信頼が厚く、国で最も徳の高い人物である。 ロキは、もうこの方にお仕えできないのだと考えると、辛くて死にそうだった。 「よく来たな、名は」 「ロキと申します。姓はハイクライマー」 「『高きに登るもの』か。よい姓を受けたのだな」 国王は満足げに笑う。 「ロキ、付いて来い」 ロキは食事をする大広間に通された。 そこには小さいテーブルが一つ。 「長いテーブルもあるのだがな、今は一緒に食事をする者もないし、遠いと話しづらい。仰々しいのは嫌なのだよ」 と、国王が快活に笑う。 国王は普段、食事をするときには、身近な者から近くに座らせるよう、細長いテーブルを使う。奇襲などを防ぐためである。 このような小さいテーブルで、ここまで近くで食事ができるということは、心からの信頼の証である。 ロキは、国王の心の深さに、ますます辛い気持ちになる。 「ロキ、どうした」 「私には、しるしがありません。国外追放になる身です。それにも関わらず、こんなに近くに寄せて下さる」 ロキはむせび泣いた。 国王は少し間を空けて言う。 「ロキ、そなたは明日からこの国におれないことを知っているのだな」 はい、とロキは頷く。 「では、それが10年ということは?」 ロキは顔を上げた。 「いいえ…そんな」 「真実とは、時として見えているようでそうでないことがある」 国王はゆっくりと立ち上がると、訳の分からないロキの前にゆっくりと右手を突き出した。
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