愛しきもの・その始まり

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「わわっ!?真次郎さん?」 「た、倒れたって…聞いて…おまっ…いてえとことか…苦しいとことか…」 「お、落ち着いてください荒垣さん!」 看護師の言う事も聞こえておらず怯えたように彼女の身体のあちこちを撫でながら言うと彼女は苦笑いを浮かべて荒垣の頭に手をポンと置く 「大丈夫だよ。真次郎さん。別に体のどこかが悪いとか、怪我をしたとかそういう事じゃないから」 顔を青くして自分の身を案じてくれる荒垣に嬉しさを感じると同時に申し訳なさを感じる。だから諭すように落ち着かせるように子供をあやすように荒垣に語りかける碧。 ようやく安心したのか荒垣はホッとため息をついて碧にそっと抱きついた 「…良かった。またお前がいなくなるんじゃねえかって」 必死の形相から一転見違えるような優しい顔になったのを見て看護師は驚く。碧は荒垣の背に腕をまわしてその背中を撫でる。 「あーもしかして教授が大げさに言ったんでしょ?全くもー…ちょっとコーヒーの匂いかいで気分悪くなっただけなのに…」 ただでさえ真次郎さんは過保護なのに不安にさせるような事を言うなんて…。まあ何にも気付かずいつものようにコーヒー飲もうとして匂いに中てられて目を回しちゃった私も私だけど。 ようやく荒垣が碧から身を話すと屈んで碧に目を合わせる 「まあいい。無事ならよかった。にしても一体何が原因だったんだ?コーヒーなら昨日も飲んでたよな?」 荒垣が尋ねると碧は顔を赤くしてモジモジと手をいじりだす。 「え、えっとね…その…」 その動作は20代半ばを過ぎてなお少女のような可愛らしさで荒垣はクラッときそうになるが一応ここは公衆の面前だし第一そうなったら収拾がつかなくなるのでグッとこらえる。 「荒垣さん。奥さまは…碧さんは病気ではありません。むしろ逆です」 控えていた看護師が彼女の代わりに説明すべく口を開く。 「おめでとう荒垣さん。彼女はおめでたです」
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