愛しきもの・その始まり

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荒垣が呆然とした表情で固まるのを慌てて揺り動かして正気に戻し電話を耳に押し当てる。 大学の研究所で働く彼女は出勤時には特に問題なく、いつものように笑顔で学生達の肩を叩いて挨拶しながら部屋に入って行った。 様子がおかしくなったのは1,2時間たったころでパソコンで書類仕事をしていたらしいのだがやけに顔色が悪かったらしいのだ。目をこすりながらキーボードを打ってるのを見かねて声をかけると 「目が疲れちゃったのかなあ?」 なんていうので無理やり休憩させることにした。温かいコーヒーを淹れて彼女のところに持っていく。 ソファに腰掛けた彼女が「すみません」と苦笑いを浮かべながら立ち上がり紙コップを受け取った瞬間… 「ふえ…?」 そんな間抜けな声を上げたかと思うとひざから崩れ落ちてしまった…。慌てて支えようとするとグッタリとしていて意識も朦朧としている。そしてすぐさま救急車で運ばれることとなったのだという。 「あ、あ、碧が…」 電話が切れた後、柄にもなくうろたえる荒垣であったが騒ぎを聞きつけた店長が彼の背中を叩いて「しっかりしろ!」と叫ぶ 「荒垣君!!今日はもういいからすぐに碧さんのところへ行きたまえ!!」 「荒垣さん!呆然とするのは分かるけどあんたがしっかりしないでどうすんスか!奥さんが倒れたんなら尚更荒垣さんがシャキッとして支えないと!」 そう口々に言われてようやく自分を取り戻すと「うるせえ、解ってんよ」と小野田を小突く。「イッテー!」とかほざくころタクシーがやってきたので「店長すいません!あとは任せます!」と叫んでそれに飛び乗る。目指すは病院まっしぐら。
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