359人が本棚に入れています
本棚に追加
スーツが歩いていると言われてもおかしくない私とは違い、洗練された大人の雰囲気漂う受け付けの女性方と挨拶を交わしながらエレベーターへと向かう。
おねーさん達綺麗だったなー
自分とはたいして年も変わらないはずなのに、社会人とはこうも違うのかと感心しつつ、ポンと到着を告げた機械音に慌ててエレベーターから飛び降りる。
が。
「なっ…」
不幸にも資料を抱えた男性とぶつかってしまった。
ドサドサと音を立てて腕から零れ落ちる資料たち。
勢いで転んでしまった私の頭にも降り注ぐ訳で。
「すみませんっ」
慌てて手近なものからかき集める。
ぶつかってしまった男性も屈みこんで拾っているようだった。
「ほんとうにすみませんでした。私の不注意で」
まるで表彰状を授かるかのように深々と頭を下げ、拾い上げた資料の束を差し出す。
「…どんくせー奴。」
ん?
ぼそりと呟かれた声。
言ったよね。
どんくせ―奴って。
奪い取る様に資料を引っ張られ、手をひっ込めるとたまたま目に入った時計が示していたのは、8時を秒読み態勢に入っており。
「本当にすみませんでしたっ」
深々と下げた頭をさらに下げるとその場から逃げるように、企画制作部へと急いだ。
「…アイツ……」
先程までの不機嫌そうな表情はどこへやら。
去りゆく姿を追うその目はなぜか楽しそうに細められていた。
最初のコメントを投稿しよう!