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そうしてたどりついた、企画制作部前。
時刻はちょうど8時。
目の間の扉を押し開け中へと一歩踏み出せば。
「部長おはようございます」
「おはようございます」
と挨拶が飛び交う。
ああ、とだけ手近な社員に返すと室内中央へと足を進める。
人気が有る部署といえど、少数精鋭といった方針を採っているので社員もそれほど多くない。
この部屋も入り口から一帯が見渡せ、出社した社員の顔があちこちに映る。
その、一点。
俺のデスクに一番近いその場所に、一人だけ浮いた黒々とした髪のアイツは居た。
周りに圧倒されているのか。
ワンテンポ遅れてほかの社員と同じように挨拶をし、頭を下げてくる。
あいつの直ぐ傍を通り過ぎ、平然を装えば脇に抱えた書類をデスクへと置く。
所定の位置へと付くと皆の方へと向き直る。
俺を中心に輪になるように集まる社員たち。
そしていつものようにその輪からはずれ、こちらへと木村が隣へと寄ってくる。
軽く頭を下げおはようございます、と挨拶をすれば、そのままヤツの進行で朝礼が始まる。
我が部署の朝礼は外回りや来客の予定など、各種連絡事項を伝え報告があればその後発言してもらい共通認識とする。
そして最後に、俺の一言で通常業務へと移行する流れだ。
木村が一通り説明し終わると、今日も大きな予定変更はないようで発言するものは居なかった。
さて、と。
いつになったら気づくのだろうか。
…まぁ、無理だろうな。
輪をなす社員の中、あいつの方へと注意を向けるも当の本人は呆けた顔でこちらを見るばかりで。
この俺でさえ、数ヶ月前に見た履歴書の写真だけでは幼い頃のアイツをは結びつかなかったのだから。
「…と。以上で業務連絡は終わりです。最後になりましたが、今日からこの企画制作部に配属になった新入社員がいます」
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