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「じゃあ美夜ちゃん、前に」
木村が一度目線で合図を送ってくれば、小さく頷き。
そしてあいつの紹介へと移る。
名前を呼ばれ、おずおずと輪の中から姿を現す。
そして数歩。
緊張もあらわにこちらへと歩み寄れば、木村の隣で足を止めた。
心持ちあいつの方へと視線を向ければ、捕らえられたのは俺の隣、木村のわずかに緩んだ表情で。
…チッ、面白くない。
まるでアイコンタクトでも取るかのように木村のその顔をみやるあいつ。
ふっと小さく一息吐いたかと思えば、何事もなかったように表情を引き締めて。
それに促され、あいつも言葉を発する。
「先程は失礼いたしました。改めて自己紹介をさせていただきます。今日から配属となりました鈴本美夜です。よろしくお願いいたします」
これで二度目。
凛とした綺麗なソプラノが室内に届く。
ああ、エレベーターの前でぶつかった時も入るのなら3度目か。
あの時は悠長に声を聞く余裕はなかったからな。
何せ、資料をばら撒かれイラついていたのだから。
それにしても「先程は」などと謝罪を述べるあたり、エレベーター前での失態以降立て続けに何かしでかしたのだろう。
あれだけ慌てていたんだ。
馬鹿をやらかしてもおかしくはない。
内心ため息を吐く。
全く、着任早々問題ばかり起こしてくれる。
元々優秀なほうではないこいつを引き入れた弊害が、既に出てしまったようだ。
呆れ半分で顔をしかめ、あいつへと視線を向ければ。
「…お前は、さっきの…」
馬鹿の他に何をしたんだ。と問いかけそうになり途中で口を閉じる。
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