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「でも、本当ご迷惑おかけしました。朝礼遅れてしまって。」
二人に向けて再度頭を下げる。
「え?まだ朝礼始まってないけど。」
ね?と木村先輩と吉川先輩が顔を見合わせる。
「でも、もう8時過ぎてますよ?」
ほら、と腕時計を見せる。
確かに、時刻は8時3分を示していた。
しかし、巻き起こるはまたもや木村先輩の爆笑。
「その時計、時間あってないし」
失礼な程身を屈めて笑う姿を呆然と見つつ、若干口許を緩ませながら吉川先輩指差す社内時計を見ると確かに8時前。
それも10分前。
嗚呼、神様。
私はお礼を言うべきなのか、それとも文句を言うべきなのか。
検討がつきません。
「ね、まだ始まらないでしょ?」
ふふ、と笑いかけられると恥ずかしさが込み上げてきて。
「重ねがさねすみませんでしたっ」
そうして慌てて頭を下げる。
「いいのよ。むしろ後輩がこんなに面白い子でよかったわ。じゃ、部長が来る前にデスクに案内してあげる」
やっと笑いの引いた木村先輩と共に吉川先輩が案内してくれたのは、室内中央。
部長の席に一番近い席だった。
「代々この席は新入社員って決まってるのよ。そして、教育係の私は隣。美夜ちゃんの前が木村さん。後は朝礼の時に説明があると思うから」
椅子にバックを置き、吉川先輩の説明に耳を傾ける。
「その席、甘く見てると痛い目見るからなー」
ちゃっかり自分の席に座った木村先輩が、頬杖をつきながら楽しそうに笑う。
その時は良く意味が分からず、隣の吉川先輩を見つめたが、木村先輩の笑顔の意味を知る時はそう遠く無かった。
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