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彼女の唇が歩の唇から名残惜しそうに放れると、徐に彼女は口を開く。
「我が誓約の弓、主と共に射抜かん」
どこまでも響き渡りそうな声は鐘の様に澄み切っていて、まるで歌の様にさえ思えた。聞いているだけで非常に心地良い。
これは弓星石の持つ祝詞だ。主である歩との接吻による粘膜摂取を終えた後に祝詞を唱える事で、彼女が歩と融合する事が出来る。
弓星石の身体が黄緑色の光を放つ小さな浮遊球体に姿を変えると、黄緑色の光を放つ小さな浮遊球体は歩の身体の中へと吸い込まれる様にして、消えてしまった。
「阿修羅姫弓星石、融合」
歩の白銀の髪と瞳が、弓星石との融合の作用によって黄緑色に染まり上がった。その瞬間、彼の左手に弓星石愛用の黄緑色のアーチェリー型の弓が出現した。
黄緑色のアーチェリー型の弓を具現化した歩はそれを左手で掴んで見せる。
「おいで、弓姫」
歩の呼び掛けに呼応するかの様にして、左手の掌から黄緑色の光を放つ小さな浮遊球体が姿を現わした。
黄緑色の光を放つ小さな浮遊球体の中にいたのは、掌に収まりそうな程に小さな身体、弓星石を彷彿とさせる長い黄緑色の髪に黄緑色の虹彩を持つ瞳、雪の様に白く透き通った肌に可愛らしい顔立ち、その身に民族衣装の様なヒラヒラとした黄緑色の服を纏い、背中に黄緑色の透き通った羽が生えた妖精の様な女の子の姿があった。
彼女の名は弓姫。弓星石の毛髪とAS粒子を素材として用いられた、御剣の作品であり、阿修羅姫専用武装の妖精型オートマトンだ。
「射抜け、弓姫」
歩の呼び掛けに応じるかの様にして、弓姫の身体が歩の身体へと吸い込まれる様にして消え去り、歩の両目の瞳に四つの菱形を連ね合わせた十字架の様な文様が浮かび上がった。
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