第五十九章 存在理由

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 そんな彼の左手に構えられた黄緑色のアーチェリー型の弓の弓弦には、先程皇帝雷蟲と化した太郎デラックス暴君童蟲を屠った森羅刀剣が矢の様に番えられていた。 「あ……」  超越の弓と化した歩の気配に気付いて、咄嗟に背後に振り返る皇后炎蟲と化した花子デラックス蘭香娘蟲の胸部に、矢の様に放たれた森羅刀剣の刀身部が深々と突き立てられる。  屈強な鎧も、再生能力も全て断ち切る最強の刀剣が深々と。それだけで勝敗の行方は明らかだった。  そんな彼女の視線の先にいた歩はシステムを解除し、阿修羅姫弓星石と阿修羅姫専用武装弓姫の融合を解除し、本来あるべき自身の姿へと回帰する。  そして、本来あるべき姿に戻ると同時に、多大なる力を行使した代償として、肉体と精神を大幅に疲労した事による重苦しい倦怠感が押し寄せる。  そのせいか、歩の全身から大粒の汗が噴き出し、呼吸も凄まじく荒くなる。 「俺の目から見て、遥も美麗も強い…」  歩は誇るかの様な表情を浮かべて、皇后炎蟲と化した花子デラックス蘭香娘蟲の胸元から森羅刀剣を抜き取り、それを静かに鞘に収めて具現化を解く。 「昔の事は知らないが…。今のあの二人は、ちゃんと前を向いて生きているよ…。過去の悲しみや苦しみとかに捕らわれずにな…」  歩は淡々とした口調で言って見せた後、数拍の間を開けてから、自分にしか聞こえない様な小さな声で囁いた。 「彼等を思ってくれて、ありがとう…」  少しばかり火照る顔を隠すかの様にして、歩は漆黒のロングコートのフードを被った。 ―美麗…様…  皇后炎蟲と化した花子デラックス蘭香娘蟲の身体は塵とも灰とも分からぬ物に物質に分解されて、跡形も無く霧消してしまった。
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