第五十九章 存在理由

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 月村花子と月村太郎。それが、花子デラックスと太郎デラックスと呼ばれていた二体の本名だった。彼等は一族間で産まれる事の無かった、月村家の分家であり、月村美麗の側近だったのだそうだ。  月村美麗を含めた第一世代のASドライヴ搭載者候補達が革新者の可能性無しとセレスティアルに予測され、第二世代に計画が托された時、第一世代の殆んどの面々が失意の中にあったと言う。美麗もそれは例外では無い。  月村花子と月村太郎の二人はそんな彼女を見ていられなくて、当時美麗が開発しようとしたASドライヴ搭載型生物兵器の開発の検体となる事を志願した。二人の身体と、様々な種類の虫の遺伝子、全阿修羅姫の能力、あらゆるミュータントのデータ。それを用いて生み出されたのが、花子デラックスと太郎デラックス。しかし、所詮は彼等も欠陥品でしか無く、オリジナルのASドライヴと阿修羅姫の力を使いこなせるまでには至らなかった。  これがセレスティアルを通じて、超人の標から得られた情報の全てで、当時の彼等の記憶の光景が脳内で再生されもした。  普段は姿勢正しく背筋を伸ばした美麗が背中を丸めて泣きじゃくり、そんな彼女に手を差し伸べる月村花子と月村太郎。彼等が花子デラックスと太郎デラックスに生まれ変わる作業の映像も見たが、それは余りにも凄惨な光景だったので、出来る事ならば余り思い出したくは無かった。  まあ、今はそんな事自体はどうでも良かった。今、最も優先するべき事は、地面に放置されたある人物の衣服を拾い上げる事だ。歩は頭痛と吐き気が絶えない自分の症状を押して立ち上がった。 ―全く…これを落とすなと…。あれ程言ったのに…  歩は地面に落ちていた漆黒のロングコートを拾い上げる。自分の身に纏う常盤織髪を解析、量産して第二世代に普及させた品である。
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