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校内に響き渡る午前の授業の終わりを告げるチャイム。
教室を出て行く先生を見送ると待ってましたと言わんばかりに教室内に賑やかな声が溢れた。
「原ちゃーん!食堂に行こうぜ!」
教科書とノートを机に入れていた皐月に声をかけたのはクラスメイトの谷垣泰司(たにがきやすし)。
「食堂ね…って悪い、今日はこれなんだ」
罰を悪そうに言って鞄から弁当が入った袋を取り出す。
この弁当はハッキリ言って無理矢理持たされた物なのだ。
「お、良いねぇ~!愛情たっぷりの愛妻弁当かぁ、憎いねぇこのこの~」
そう言って茶化す谷垣に脇にパンチをお見舞いをして皐月はさっさと教室を後にする。
呻き声が聞こえたがそれは敢えてスルーしておこう。
「さて、久しぶりにあそこに行くか」
皐月が向かったのは屋上。
本来は立入禁止だが此処は誰にも邪魔されない絶好の穴場スポットなのだ。
「あ~!陽射しが気持ちいい~」
屋上に着いて伸びをすると裏に回って弁当を開ける。
弁当にはから揚げとたこさんウィンナー・ウサギに象られたゆで卵にカラフルなおにぎりにプチトマトとレタス。
明らかに女子が作りそうなお弁当の内容に苦笑する。
「こんな弁当を教室で広げたら絶対に笑われる…」
(味は美味いんだけどなぁ。)
そう思うが今日こそ食べなければ作った主の雷が落ちるのは確実だ。
「いただきます」
唐揚げを一口かじると
衣と鶏肉のジューシーさが口いっぱいに広がる。
(やっぱり、美味い。)
唐揚げやたこさんウィンナー、カラフルなおにぎりはまだ良い。
うさぎに象られたゆで卵。
こればかりは抵抗感が否めない。
「花…」
ゆで卵と格闘していた皐月の耳にそんな呟く声が聞こえた。
「?」
皐月は辺りを見渡すが人の気配は自分以外全く無い。
第一、ここは立ち入り禁止の場所だ。
自分以外の人が来たらドアが開く音で直ぐに解る筈。
「見つけた、俺の名も無い花」
そんな声が再び響いて
皐月の頭上に影が差した。
「え?」
皐月が頭上を見上げるとふわりとその影が舞い降りてゆっくりとこちらを向いた。
(…凄い綺麗な色の瞳)
その人物の青空のようなスカイブルーの瞳に見とれていたら
「さぁ、咲かせてくれ。俺の花」
男はそう言って近寄るなり
ゆっくりと皐月を押し倒した。
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