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(…助かった?)
男から解放された皐月は起き上がると外されたボタンを留め緩められたネクタイを直す。
「大丈夫?」
凛とした声が耳に届く。
目の前には長い艶やかな黒髪をかきあげて皐月を心配そうに見ている女性。
「は…はい」
「良かった、もう大丈夫だからね」
まるで花が咲いた様な優しい笑みに思わず目を奪われる。
フェンスの前には皐月を押し倒していた男が倒れていた。
「ったく!あんたは何か感じると直ぐに俺の花って言って男女問わず襲って後でフォローするこっちの身にもなりなさいよ!」
そう叫びながら歩いていき
フェンスの前に倒れている男の胸倉を掴む。
「フッ、見事な蹴り。男前だな百合亜(ゆりあ)」
「少しは反省しろっ!!」
向こうで喧嘩が始まってしまったようだ。
そんな光景に皐月は呆然とする。
「あ…あの!」
思わずフェンス前まで来て大声で叫んだ皐月に2人は皐月の方を振り向く。
「何!?」
キッと睨みつける百合亜に皐月はたじろぐが
「俺はですから…その、首筋を舐められただけですし」
「全然良くないっ!!」
百合亜が咄嗟に皐月の首筋に顔を近づけるなり
「…キスマーク」
ぽつりと呟いた百合亜は再び振り向くと
「…初対面の純情少年にこんなもん付けるなんて覚悟しなさい!時雨(しぐれ)ー!!」
そう叫ぶなり時雨と呼んだあの男に至近距離で飛び蹴りをくらわす女性に皐月は唖然とする。
(何か状況が悪化した?)
そう思っていると
昼休みの終了を知らせるチャイムが鳴り響いた。
「ヤバっ!授業!」
ひっくり返った弁当を戻しに行き喧嘩している二人の横目に屋上を後にする。
「あ!」
皐月が屋上を出て行ったのを慌てて追いかけようとしたが
「こらっ!!まだ話は終わってないっつーの!」
そう言って百合亜は時雨の首根っこを掴む。
「百合亜…アイツだ。間違いなく俺が長い間探してた花なんだよ!お前も会った瞬間何か感じなかったのか!?」
「へ?まぁ確かに…言われて見れば今までの子とは違ったけど」
そう言った瞬間。
掴んでいた感覚が何も無い事に気づいた。
バタンと閉まる音に百合亜はワナワナと拳を震わせると
「…あんにゃろー!人が考えている隙に逃げやがったなー!!待ちなさいー!!」
そう叫びながら後を追う様に屋上を後にする。
シン、と静まり返った屋上。
そこに風の様に姿を現す人物。
「…名も無い花…、こちらにしては願ってもいない好都合な情報だ」
そう呟いたのと同時に
その人物は再び風の様に姿を消した。
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