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「なぁ。兼城って、強いんじゃねえか?」
試合を見ていたギャラリーの誰かが言った。
その言葉を、地獄耳の翼が聞き逃すはずもなく、王富がハーフコートを超えてくるまで、ずっとにやにや笑っていた。
とても不気味だったが、見方によっては嬉しそうにも見える。
「……どうしたのかな、僕らのキャプテン。啓、なんか言ってきてよ」
「ムリ。近づきたくないし関わりたくないのが本音」
兼城のディフェンスは、マンツーマンとは言っても、ハーフコートだけを守るハーフコートマンツーマン。
なので、王富が反対にいるときは待っているだけとなる。
だが、忘れてもらっては困るが、あくまでも試合中。
本当は話していたりなんかすると、監督から激怒の叫び声が聞こえてきたりするのだが、ここは佐弥夏なのでお咎め無し。
王富がハーフに入ってくるころには、にやけていた翼の不気味な顔も治っていて、話していた光と啓も集中している。
やるところではきちんとやって見せるから、佐弥夏も試合中の私語を咎めないのかもしれない。
さて、王富のオフェンスに入って、それでもシュートチャンスを止められた。おそらく、4番の沼田は、腸(ハラワタ)が煮えくり返りそうなほどの心情だろう。
田中が戻ってきて、今度はシュートではなく、パスのようだ。目線をキョロキョロとさせてパスコースを探している。
だが、ディフェンスのプレッシャーがきつく、上手くパスコースを見つけられないでいるみたいだ。
「ちっ。よこせ!」
周りに絶対聞こえた舌打ちをしたのは、3年で5番の島。
後輩のフォローが出来ないほど、王富の3年は落ちぶれてはいないらしい。
島は持ったボールをそのままCの沼田に渡す。そして、呟く。
「行け。叩き込め」
そのあと、その呟きを聞いていたかのように、沼田はダンクを決めた。
それを見ていた翼は、楽しそうに、子供のように目を輝かせて笑った。
「いいね……。勝負はこうでなくっちゃ!!」
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