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「ついじゃありません」
「悪かった」
「高瀬先生、私は仕事に戻りますね」
彼女は軽く俺に頭を下げてナースステーションへ戻り仕事を再開した。
彼女が外科に移動になる少し前から交際を始めて、まだ数週間しか経っていないが、俺は既に彼女との結婚を意識し始めた。
蝕まれる病の恐怖……
そんな心の隙間を埋めたのが彼女だった……
彼女を失いたくないのと、死への恐怖が入り混じり、俺はまだ彼女に自分の身体の事を話してはいない……
薄々気づいている様子だが彼女はそんな顔を俺には見せない……
医局に戻り、剣持先生の診察を受ける。
「高瀬君、少し休んだらどうか?」
「いやしかし僕は……」
「今しかチャンスはないぞオペを受ける最後のチャンスだ」
「そんな危険なオペ僕には」
「青島君……
彼女はどうするんだ?」
「それは……」
「愛しているんだろ?」
剣持先生に心を見抜かれ目が泳いだ……
彼女と交際を始めた直後、俺は彼女の家の隣に引っ越した。
偶々彼女の父親が所有する家と言うことで家賃は免除でタダで貸すと申し出に甘えて引っ越しを決意したのだった。
「高瀬君、青島君は薄々気づいてるぞ……
今は君の気持ちを優先して誤魔化してはいるが、彼女が君が病んでる事を必ず気づく日が来る」
「そうですね……」
「青島君はきっと君を支えてくれるはずだよ」
「剣持先生」
「高瀬君よく考えなさい」
「分かりました」
剣持先生は医局を出て行った後、俺はナースのシフト表で彼女の夜勤の日を確認をした。
「明日か」
ちょうど俺も明日は当直勤務だ……
剣持先生は俺の体を考慮して比較的楽な当直勤務にしてくれてる。
彼女……
美季は普段プライベートの時は俺を『泉』と名前で呼ぶ……
職場でも『泉』と呼んでもらいたいのと、薄々気付いている現実を突きつける辛さを覚悟しつつ、俺は自分のカルテを忍ばせる事を決意したのだった……
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