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遠目から見てもその男はデカかった。
流石に2メートルは無いだろうが、それでも周りにいる人間の平均よりも明らかにデカい。
カラオケ屋の前、段になっている部分にその男は腰かけていた。
ガタイが良い為、安っぽい金色をした上着が何故か似合っている。
三十代中盤、そんな見た目に合ったセンスと言えるかもしれない。
イライラとした様子でタバコをフカしている為、通行人もその横を遠巻きに過ぎていく。
せわしなく辺りを確認する瞳、野太い眉の下の汚れきったそれが、こちらの姿を捉えてピタリと止まった。
「よおマサキ」
眉と同じに野太い声を発し、彼は手を挙げた。
「…ん」
マサキも面倒くさそうに同じ動きを返すと、彼にゆっくり近付いていく。
桑田ハジメ。
例のメールを送ってきた男である。
「じゃあ早速行くか」
そういい、桑田は火の着いたタバコを投げ捨てた。
「いやいや、何してんだよ、てめえ」
マサキは苛立ちながらそれを拾い、自分の携帯灰皿にしまい込む。
「相変わらず細けえなぁ」
自分より年下にタメ口以上の言葉を吐かれたというのに、彼が気にした様子はない。
それだけマサキとの仲が良いという事である。
桑田はポケットに手を突っ込み、肩をいからせるようにして歩き出した。
マサキもその後をダルそうについてゆく。
カラオケ屋に入り、適当に部屋を頼むと、二人は真っ直ぐそこへ向かった。
小さなカラオケ屋の小さな部屋。
成人男性二人が入ると窮屈に感じる。
むわりと、部屋の中に桑田の付けている香水が広がった。
マサキの付けている柑橘系のものとは違う、バニラのような甘い香り。
「桑田さん、アンタ香水付けすぎだわ」
「あ?お前だって付けてるやん」
「いやいや、アンタは量付けすぎてんだってんでしょうよ」
「俺はこの匂いが好きだからええんよ」
などと、たわいのない会話とヘタクソな歌が交じる事二時間程。
「そういや、ヒロコどうなったんや?」
当然といえば当然なのだが、遂にその話題が上がった。
「…ん、うん」
マサキはため息を吐き、ノドを鳴らして唾を送り込んだ。
渇いたノドはそれだけでは足りず、注文していたオレンジジュースも続けて流し込む。
こちらの様子と空気が変わった事に桑田も気が付いたようだ。
「なんや?ヒロコがいなくなったんはお前とケンカしたからとかなんか?」
面倒くさい。
マサキは口に出さず、桑田を見返してそれを伝えた。
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