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煙をお互いに吐きつつ、お互いがしばらく黙る。
「……」
桑田は選曲をするつもりでもないだろうが、パラパラと歌本をめくっている。
マサキは、タバコの合間、オレンジジュースを吸い、部屋をなんとなく見渡した。
ヤニで汚れた壁紙、火の粉で出来たのだろう焦げ穴がところどころにあるソファー。
値段に見合うボロボロの室内に、むさ苦しいのが二人。
「いや…うん」
やがて、マサキはそう呟くと話を切り出した。
ゆっくりと時間を掛け、あの夜のよく解らない話、それをかいつまんで桑田に伝える。
話し終わったのは数分後だろう。
あの夜の事、それは鮮明に印象付けられているが、自分が理解出来ている事、相手に理解させられる出来事、それはほとんど無い。
だから、桑田には不可思議でない部分を述べただけだった。
「う~ん…確かにお前が言うとおり、よく解らん話やな」
金色の上着を揺らせ、桑田は深く腰掛け直した。
がりがりと揉み上げを掻き、その濃い顔をしかめる。
「ああ…でしょ?…なんかよく解らんとしか言えないんすよ」
テーブルに残った冷めたポテト、ふにゃふにゃになったそれをカジりながら、マサキも桑田と同じような表情をした。
当然、ポテトがマズくなってたからそんな顔をしたワケではない。
「せやんな…そんなら誰かに話のしようも無い、もんな」
桑田は皿に残ったパセリを手でイジっている。
「……」
また沈黙が訪れる。
桑田に話をした事で若干重荷の解消にはなったが、やはり解決するような類の話では無かったらしい。
「まあ、こんな事を話してもさ、桑田さんにゃ解らんとは思ってたんすよ」
マサキの馬鹿にするような言葉に。
「お前ふざっけんなや、なんでそんな言い方されな…」
流れに乗るようにテンションを上げてツッコんだ彼の動きがぴたりと止まる。
(…ん?)
眉を動かし、顔をゆっくりと変化させる。
何か違和感にとらわれた、そんな様子である。
それはまるで、あの夜の自分のようで。
「強盗に襲われたワケやない…レイプ犯に襲われたワケやない…」
ぶつぶつと桑田が呟きを漏らしてゆく。
何か、必死に何かを探ろうとしている顔。
やがて繋がった言葉にマサキは自身の心臓を握られたように錯覚した。
「お前さぁ…もしかしたらやけど、なんか変な音ぉ聞いたりせんかった?」
「…え…」
桑田に伝えた内容に、音の事は含まれていなかったハズだというのに。
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