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「ア…アンタ、その音って…」
マサキが驚いた顔、それにタバコの煙を吐きかけながら、桑田は満足そうな笑顔を見せ。
「…マジかい」
る事も無かった。
その顔もコチラと同じように曇っている。
二人はただ、煙を口の端から垂れ流しつつ、また無言の時に包まれた。
「…いやいやいや、黙ってても仕方ないっしょ、一体なんなんすか?」
しばらくして切り出したマサキに対し、首をゆっくりと回しながら、桑田がダルそうに繋げる。
「あ?うん、まあ今のお前のツラぁみたらな…」
奥歯に物の挟まったような、明らかにあの『音』について何か知っている物言いである。
「…」
桑田が先を続ける、それを待ちながらマサキはタバコの箱をイジった。
最近の自身をとりまく『何か』と同じように、それは軽く、そして簡単にクルクルと回転する。
「まあ…俺もよう解らんし、何から話したらええのか…解らんけどな」
桑田の表情からして、話の内容がロクなもので無い事は想像出来た。
「うちの連れにもな、なんか行方不明になったヤツが知り合いにいるヤツがいるんやけどな」
解りにくいが、多分、連れの知り合いが行方不明になったという事だろう。
行方不明。
行方…。「ちょっ!?なんだよそれって、アンタ」
「ああ、もう邪魔やなぁ…いいから聞けや」
氷だけになったグラスを傾けながら、桑田がコチラを制する。
その切り出し方に落ち着いていられるハズなど無い。
(なんだ?行方不明?行方不明ってヒロコと同じだってか?)
何本目になるだろう、気を紛らわせる為のタバコに火を着ける。
桑田はマサキがタバコの煙を吐き出すまで待ち、話を続けた。
「んで、その連れの連れが行方不明になった時は…ええと、数カ月前やな、それは。なんか何もなかったらしいんや」
「何もって?」
「お前ん時とはまあ違うけどやな、連れの連れはやな、夜の工場に忍び込んだらしいんや。まあアレやな、肝試しみたいなもんやと思うわ。そんでな、まあ暗い所で興奮してきてヤるやんか?」
何か同意を求められたようだったが、マサキはそれを軽く流した。
「んで、とりあえず工場の食堂で一発かましたみたいやねん」
桑田の言っているのは、多分近くにあるデカい工場の事だろう。
24時間稼働しているそれは、今日もモクモクと煙を吐き出しているハズだ。
マサキはそれを思い出しつつ、桑田は自然に、白煙の流れを模倣していた。
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