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「で、アイツらな、一旦は敷地から出たんやけどな、なんか女が忘れ物したらしんやわ。で、連れは女を外に待たせて自分だけまた工場ん中に入ってったんよ」
女を夜中に一人にする、一見コクな話にも見えるが、自分が同じ状況になったのならマサキもそうする自信があった。
工場に入って、もし守衛に捕まったのなら、不法侵入の現行犯として警察に突き出されるだろう。
だが、工場外で待っているだけなら、たとえ怪しくても言い訳が利く。
多分、桑田の連れもそう判断した…のだろう、きっと。
「で、何回か見つかりそうになったらしいけど、まあ目当ての食堂に着いて、んで女の忘れ物見つけて、んで…まあ、女ん所に戻ったんやな」
簡潔なような曖昧なようなその説明、それを頭で必死に順序立てながら、マサキは煙をゆっくりと吐いた。
桑田はお絞りで指を拭き、テーブルに置くと、口元に付いたポテトチップのカスをわざわざ舌でナメとった。
「その後なんや」
呟き、急に真面目な表情になる。
「捕まりたくは無いってもな、別に見つかってるワケちゃうやん?だから、連れも走ってるワケやないねん。んで、アレや、女ん所に、女ん待ってる裏門の近くん所に行ったら聞こえたらしいんよ。それが」
マサキはツバを飲んだ。
緊張で乾いたノドが痛みに唸る。
解っている。
あの音。
『ぴしぴし』
というあの音の事だろう。
「ピキピキパーンッ、てな音や」
「……あん?」
ピクリと頬が引きつった。
「あん?って言われてもな、お前が聞いたんもそんなんなんやろ?」
鼻の穴が膨れ上がり。
「違っげえよボケ!何ヒッパリまくった挙げ句に知らねえ音のオチつけてやがんだてめえはよ!」
こうなれば仕方ないだろう怒り、それが噴出する。
普段のツッコみとは明らかに違う、怒りの色濃いコチラの反応を見て、やや桑田は気圧されていた。
「いや、ちょっと落ち着けな?ちょっ」
「ざっけんなよ!こっちの手を読んだみたいな反応してっから、んなもんこっちは期待して聞くにきってんだろがよ!」
「ちょっと待て、解った。色々俺の話と通じてんやし、まだ最後まで話はしてないやん?とりあえず聞こうや?な?」
マサキは桑田がハッキリ聞き取れるように舌を打ち、明らかにイラついた表情で頬杖をついた。
怒りと同様、タバコの煙が勢いよく鼻から噴出した。
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