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マサキが訝しがりつつ細目で睨む前、桑田はまたポテトチップを口に運ぶ。
「で、どこまで話したかな…ああ、そうそう、連れが女ん所に着く前やな。そん時にピキピキパーンッて音が聞こえたらしいんよ」
さっきと変わらない話じゃないか、そう睨みつけるマサキに向かい、桑田は慌てて手で制した。
「違う違う、間違いや…ええっとな、そうそう、それが聞こえるちょい前からピキピキってぇ音だけはなんか聞こえてたとかなんか言ってたな」
「少し前…」
「そやで、んで、女がいるハズん所に着いたら、もういなかったらしいわ」
「いない…」
「あん、んで、今も行方不明なんやわ。なんかバッグは置いたままだったらしいんけどな」
「…」
似ている。
マサキは自分の体験したあの時を邂逅した。
(…確かに、ヒロコん時もいなくなるのが解る前からぴしぴしって音がしたな…)
音の表現、それは言語であっても模倣しきるのは難しいだろう。
多少の偏見はあろうが、桑田の…というか、いわゆる関西ナマりの人間を介して伝えられたのならば、それは尚更な気がする。
だとすれば。
(この人が言ってんのは、やっぱマジで近い話じゃねえかよ、ヒロコの場合とよ)
色々と不確定であり、信用度なんて皆無な話だが、コレはキッカケ足り得る情報かもしれない。
ヒロコがいなくなり、今という時間、場所、あらゆる意味での座標、それから一歩も動けなくなっていた自分、それが進めるキッカケに。
「…どや?」
桑田が首を捻りつつ促してくる。
反応を待っているのだ。
「ん…ああ、確かにヒロコん時に似てるっすね」
ピキピキパーンッ、その音の末尾の大きな変化。
マサキは、自分が聞いたモノとは明らかに違うそれが気に掛かっていた。
何かが弾けるようでもあり、音の階層が跳ねただけのようでもある。
そもそも、この不思議な話の肝である為、口伝されていく間に脚色されてしまった可能性もまま濃い。
信じられる情報は無い。
間違いないのは、一人の女が行方不明になった、それだけだ。
「せやろ?…まあ、とりあえず聞いた話だから、伝えるだけ伝えようと思ったんや…ヒロコが同じようにいなくなるんかは解らんけどな」
桑田のサラリとした呟きにマサキは目を瞑った。
同じようにいなくなるか解らない。
いや、違う。
頭では無く心では理解出来る、いや、している。
恐らくその女もヒロコと同じだ。
ヒロコも、その女と同じ原因で行方不明になったのだ
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