めぶき

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謎の音。 符号するそれが、現実感のないヒロコの失踪、それを夢うつつの世界から引きずり出し始める。 マサキはまた、自身の身体がふうわりと痺れるのを感じた。 心臓も素早い動きへと変わってゆく。 奇妙な興奮と緊張感。 身体が、好きな女に告白する、その時のように制御が利かない。 (なんだ?…なんだよ?) ノドが、急激に乾燥する痛みに唸る。 めまいがした。 ヒロコの失踪、それは既に解っている事、常に考えていた事だったとしても。 疑問も悩みも、解決も解消もしていない。 そして。 新しい疑問が浮かんだ。 (…二人) そう。 (…ヒロコとその子、コレで二人…二人だけ、なの…か?) それが気になった。 桑田の連れの彼女の失踪騒ぎ。 意味不明で不可思議なそれ。 ヒロコの場合と似通っていると思われるそれ。 (俺と桑田、基本的に地元から動かない俺らの間で話が知れる、伝わってやがる…本当に) 本当に二人だけなのか。 被害者、といっていいかは解らないが、行方不明になったり失踪した人間はまだいるのではないか。 「そんな難しい顔すんやなんて俺の話も役に立ったって事やな」 「ん、うん」 神妙な顔つきになったこちらを見、だが桑田は空気を読まずに続けてくる。 「とりあえず俺はお前の役に立てたようやな」 「あ、まあ」 イヤな気がし、マサキは表情を苦くする。 「じゃあ一万貸してくれ」 「死ねよ」 背中をソファーに預け、ポケットから取り出したのど飴を口に投げ込む。 急激にダルさに襲われ、ため息が深く長く吐き出された。 「そんな事言わんで頼むわぁ、今月はホントにキツいんやって」 「いやいや、アンタ毎月同じ事言ってんじゃないっすか」 「違うねんって、今月はマジなんやって」 桑田は、パチンコで貯めた借金が百万ほどあるらしい。 店の寮費と食費を考えたら、返済で首が回らなくなる、そこまでキツくなるという事はないハズなのだが。 「いや、マジで頼むわ、土下座してもええから」 「アンタの土下座なんていらねえええ」 時計の針は夕方の五時に近づいている。 そろそろフリータイムの終了時刻だ。 「ああっ!もう、とりあえず会計だけはしとくっすから」 マサキはしつこくすがる桑田を適当にあしらい、仕方なく会計を持った。 一万千円。 コレが高くつくのか安くつくのか、マサキにそれは解らなかった。
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