もえ

2/11
前へ
/113ページ
次へ
吐き出した煙が逆風で自分の視界に散らばる。 マサキは涙を誘うように染みるそれに目を細めた。 ボロボロの欄干、塗装が禿げ上がりアチコチがさび付いたそれに体重を掛けると。 ぎしぎし。 と音を鳴らした。 ぼんやりと、薄い月明かりに照らされる川をしばらく眺め。 眺め。 「…ん…アレ?」 マサキは目を留めた。 鬱蒼とする雑草の前に並ぶ柵、その一部分がおかしい。 よく見えない。 欄干から身を乗り出すようにし、煙を邪魔に思うワケではなく目を細めた。 「…開いてる…のか、アレって?」 どうやら、柵の一部が開いているらしい。 川に入るのを防ぐ為に、柵は開閉不可能な杭のような形状のものだった気がするのだが。 気になる。 (う~ん…明日は夕方勤務、か…) 時間の余裕は十分にある。 マサキはタバコを携帯灰皿に押し付け、肩を軽く震わせてから歩き出した。 ぶんぶんと、虫が舞う音が時折聞こえる。 (もう冬なんだから、とっとと死ねよな) 柵に沿って、マサキは途切れている地点を目指した。 (やっぱ…か) 学校にある鉄棒のような太さの柵が規則正しく並ぶ中、やはり外れている部分がある。 かといって根元から引き抜かれているワケでも、当然ねじ切られていたり、叩き切られていたりもしなかった。 (アレ?…俺の記憶違いだったんかな) その部分だけ開閉可能な扉状だったというだけである。 ぎいぎい。 と、開け放された扉が虫の声を真似る。 扉に手を掛け、マサキは川の方向を確認した。 今の水量なら、川までは5メートル無い。 目の前には、まだ遊泳が禁止されていなかった頃の名残か、コンクリートの斜面をえぐるようにして出来た階段があった。 じゃりっ、と靴がコンクリートか砂を踏み鳴らす。 「まあ…暇だしな」 喉を軽く鳴らし、マサキは階段を下り始めた。 じゃりじゃりと、一歩毎に音が響く。 やがて、水場独特の冷たい空気、それが身体を震わせた。 間近に川がある。 そして。 ぴきぴき。 音が響いた。 同時に上がった何かを削るような音は、マサキの足が摺り足のまま防御体勢に移ろうとした為だ。 (…おい…なんだよ…マジかよ) ビクビクと身体が波打ち、小さな震えが生まれる。 ぴきぴき。 「っ!?」 悲鳴が漏れる。 ぴきぴき。 「ぅっ!?」 音の間隔が明らかに前より短い。 恐怖で視界が更に黒く染まる。 音が、音は。 ぴきぴき。 明らかに近付いてきていた
/113ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加