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吐き出した煙が逆風で自分の視界に散らばる。
マサキは涙を誘うように染みるそれに目を細めた。
ボロボロの欄干、塗装が禿げ上がりアチコチがさび付いたそれに体重を掛けると。
ぎしぎし。
と音を鳴らした。
ぼんやりと、薄い月明かりに照らされる川をしばらく眺め。
眺め。
「…ん…アレ?」
マサキは目を留めた。
鬱蒼とする雑草の前に並ぶ柵、その一部分がおかしい。
よく見えない。
欄干から身を乗り出すようにし、煙を邪魔に思うワケではなく目を細めた。
「…開いてる…のか、アレって?」
どうやら、柵の一部が開いているらしい。
川に入るのを防ぐ為に、柵は開閉不可能な杭のような形状のものだった気がするのだが。
気になる。
(う~ん…明日は夕方勤務、か…)
時間の余裕は十分にある。
マサキはタバコを携帯灰皿に押し付け、肩を軽く震わせてから歩き出した。
ぶんぶんと、虫が舞う音が時折聞こえる。
(もう冬なんだから、とっとと死ねよな)
柵に沿って、マサキは途切れている地点を目指した。
(やっぱ…か)
学校にある鉄棒のような太さの柵が規則正しく並ぶ中、やはり外れている部分がある。
かといって根元から引き抜かれているワケでも、当然ねじ切られていたり、叩き切られていたりもしなかった。
(アレ?…俺の記憶違いだったんかな)
その部分だけ開閉可能な扉状だったというだけである。
ぎいぎい。
と、開け放された扉が虫の声を真似る。
扉に手を掛け、マサキは川の方向を確認した。
今の水量なら、川までは5メートル無い。
目の前には、まだ遊泳が禁止されていなかった頃の名残か、コンクリートの斜面をえぐるようにして出来た階段があった。
じゃりっ、と靴がコンクリートか砂を踏み鳴らす。
「まあ…暇だしな」
喉を軽く鳴らし、マサキは階段を下り始めた。
じゃりじゃりと、一歩毎に音が響く。
やがて、水場独特の冷たい空気、それが身体を震わせた。
間近に川がある。
そして。
ぴきぴき。
音が響いた。
同時に上がった何かを削るような音は、マサキの足が摺り足のまま防御体勢に移ろうとした為だ。
(…おい…なんだよ…マジかよ)
ビクビクと身体が波打ち、小さな震えが生まれる。
ぴきぴき。
「っ!?」
悲鳴が漏れる。
ぴきぴき。
「ぅっ!?」
音の間隔が明らかに前より短い。
恐怖で視界が更に黒く染まる。
音が、音は。
ぴきぴき。
明らかに近付いてきていた
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