もえ

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ぴきぴき。 「ふわぁっ!?」 迫ったそれに大きな悲鳴が出る。 マサキに出来るのはそれだけだった。 防御の姿勢になってはいるが、相手が何か解らない、勝ち負けの関係するかも解らないものが相手ならば、対処しようがないからだ。 「きゃっ!」 という音にマサキは。 音。 音。 (…声?) 両手で身体を庇うという拙い防御行動、それを解き、マサキは声の方を改めて確認した。 真っ暗な中、雑草と木々の間からゆっくりと何かが出て来る。 「あ…あの~…」 それは女だった。 暗がりで細かく把握する事は出来ないが、割と可愛らしい子である。 とはいっても、二十代中盤くらいの年齢はしていそうだったが。 先ほどの音は、この女が落ちた枝を踏みながら近付いてきたせいらしい。 「大丈夫…ですか?」 怯えた様子の女に、マサキは慌てて体裁を取り繕った。 「いや、大丈夫っすよ、ホラ、まさか人なんているなんて思ってなかったから」 ははは、と空笑いをしてみるが。 「そ…そうですよね~…」 女の反応はイマイチだった。 それはそうだろう。 夜になったばかりの河辺、そこに一人でいる男、それがいきなり大声を出したのなら、誰だって怖がるハズである。 「いや、あのホントにゴメンね?ちょっと柵がさ、ホラ」 と扉を指す。 「開いてたから何かあんのかな~…って、気になったんすよ」 「あ、ああ…そう、ですね」 女も相槌する。 「…」 「…」 しばしの沈黙。 マサキは軽くこめかみを掻き、耐えたくないそれを破る口火を切った。 「あの…こんなとこで何やってんです?夜は危ないでしょ?」 と、自身を指差し。 「こんな怪しいのが来たりしますし」 と、それに緊張を少し緩ませたのか、女は軽く笑ってみせた。 「まあ…そうですよね。夜は色々と物騒ですもんね」 「え…と、うん……アレです、こんな暗い所で話すのもアレですし、ちょっと外灯のとこまで行きません?」 「そう…ですね。暗い所で怪しい人と話すのも怖いしね」 イタズラっぽい笑みを浮かべ、女が肩をすくめた。 「じゃ、あそこまで」 橋に備わった外灯を指差し、自分が害悪にならない事を示す為、マサキは彼女より先に階段を上がってゆく。 歩道に上がってしばらくし、振り向くと、女が扉を閉め、鍵を掛けたところだった。 (鍵?…なんでこの子がそんなん持ってんのかね) ゆっくりと、二人は橋の方へ歩いていった
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