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(なんか…ナンパしたみてえだな、コレ)
歩きながらマサキは軽く顔をしかめた。
女がついてくる足音を聞き、さっきまでいた橋の真ん中辺り、それより手前の外灯付近の自販機に背中を預ける。
「ん~……んで、何してたんすか、あんなとこで?夜だし危ないでしょ?」
そっぽを向きながら話掛けている為、女の表情は解らない。
しばらくの沈黙にマサキは続ける。
「まあ、話したくない事もあんでしょうから、言わなくてもいいっすけどね」
向きやり、マサキは女の姿を確認した。
茶色のボブカットは内側に巻かれる事もなく地面に向いている。
青いダウンジャケットの下には、桃色のセーターが覗き、細身のGパンとの間にアクセントを効かせていた。
年齢はやはり二十代中盤といったところだろう。
外灯のぼんやりとした明るさの中で、それは十分すぎる程輝いてみえた。
好みのタイプである。
「ええ…まあ」
それは肯定だろう。
何か答えたくない理由があるのだ。
もしくは、単純に、大して知りもしない怪しい男に話したくはないのか。
「でも…でも、えっと…アナタもなんであんなところにいたの?」
「俺は…ホラ、さっきもちらっとだけ言いましたけど、アレっすよ、なんか川見てたら柵が開いてたっつう、ね」
足で反動をつけ、預けた背中を自販機から引き剥がす。
「まあ、んなくだらない理由のお陰でキレイな人に会えたから良いんすけどね」
親指で女を指した後、マサキはポケットに手を突っ込んだ。
くすり、と女が笑う。
「アタシ、初めてですよ」
「何が?」
「なんていうか、そういうセリフ言うキザな人見たの」
コーヒーを買い、マサキは女を再び見る。
「紅茶のが良いすか?」
「え、うん」
細身の缶紅茶を買い、女に手渡す。
「まあ、キザかどうかは知らないっすけど、ホントの事言ってるだけすからね」
コーヒーを一口飲み、マサキは女に促した。
「じゃあ、頂きますね」
こくりと音を立て、女のキレイなノドが波打つ。
ゴミ箱の上に飲みかけの缶を置き、マサキはタバコに火を着けた。
「とりあえず、俺は小日向です。小日向マサキ」
笑顔で見つめるコチラに、女も繋げる。
「アタシ?…う~ん…まあ教えてもいっか…アタシは津島ユミです」
「津島さん…か、よろしくお願いしますね。っても、何をお願いすんのか解らないっすけど」
「ハイ、よろしく」
笑顔のユミの可愛らしさが夜の星を更に光らせた
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