もえ

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煙と湯気。 マサキとユミの吐き出すそれがそれぞれ白く広がる。 「あの…コレ、ナンパになる、んすかね?」 「え?…さあ?」 困ったような、そうでもないようなユミの答えに、マサキはため息を返した。 しばらく前まではヒロコの事しか考えられなかったというのにコレはなんなんだろう。 何か自分のゲスさ加減に腹が立つ。 だが、自分がユミに好意を抱き始めてるのは否定出来なかった。 「津島さんは今、ヒマ…なんすか?こうやって無駄に付き合ってくれてますけど」 「ヒマといえばヒマだし、そうじゃないといえばそうじゃないかなぁ」 「そういや…涼しいすよね、あの川ん辺りって、やっぱり」 何となく振った話に、津島が傾けた紅茶を戻す。 「です、ね…もう冬だし、年取ると時間経つのって早いよね?」 「まあ、はい…って、津島さんそんな年齢じゃないしょ?」 「アタシを幾つだと思ってる?」 ユミは笑いながら、子供みたいな口調で返してくる。 「俺、嘘はキライなんで世辞は言わないっすけど…まあ、二十代中盤くらいなのはそうっすよね、二十八くらいすか?」 「あははっ、アタシ三十五よ?」 思わず止まってしまう。 年齢が自分より上すぎる、という事ではなく、全くそう見えない事に対してである。 「ちょっと!止まってる止まってる」 「あ、いやいやいや、だって全然そう見えないんすもん。そりゃ、びっくりしますってば」 コーヒーの残りを流し込み、マサキはゴミ箱へそれを放った。 左右に紅茶の缶を振るユミ、その動作から中身が空だと予想し、手を伸ばす。 「あ、ありがと。さっきから、小日向くん優しいよね」 手渡された缶を捨てながら、マサキは少し顔を赤らめた。 「そ…そりゃレディに優しいのは当然でしょうよ、野郎ですもん、俺」 気恥ずかしくて視線をイマイチ合わせられないコチラ、それを追うようにイタズラっぽい視線が狙ってくる。 「もしかしたら、照れてる?」 「そりゃあ照れるっしょ、んなに見つめられたら」 携帯灰皿をポケットにしまいながら、マサキは軽く距離を取った。 この状況はなんなんだろう。 二十分前の絶望的な孤独感はどこにいったのだろう。 ヒロコへの渇望はどうしてしまったのだろう。 馬鹿みたいにハシャぐ自分、それを恥じて外側から睨み付けている自分。 本心が揺れている。 もう。 もう。 もう。 もう、いなくなったヒロコを気に掛ける意味は無いのではないか、と。
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