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「ああ、飯はいいや」
母親に告げ、マサキは二階に上がっていった。
ぎしぎしと軋むのは、マサキの体重のせい、というよりも単純に古いからだろう。
二階にある2つの部屋、その手前のドアに手を掛ける。
建て付けが悪い事を嫌みな音で主張しながら、ドアがゆっくり開く。
狭い部屋からタバコの匂いが散らばった。
窓がある南側以外は本棚と本棚、そしてテレビとパソコンデスクで固められている。
色々な物が色々と散乱するその真ん中に万年床があった。
脱いだカーゴパンツをパソコンチェアに掛けると、マサキは布団に座り込んだ。
ここが定位置なのだ。
携帯電話の充電器を繋げると、マサキは4つある枕とクッションをかき集め、そこにごろりと寝転んだ。
そして、また携帯電話を開く。
優木まおみの笑顔、無邪気なそれを素早い連打で消し、メール画面を確認する。
先ほどユミから貰ったメールを。
(…どうすっかな、どうすっかな)
抑えきれない高揚感が、貧乏揺すりという形で現れる。
ぎしぎしと揺れる安物のパソコンデスクを感じながら、マサキは直ぐに返信するメールを完成させていた。
【今日は会えて嬉しかった。】
もちろん、色々と他の言葉で飾り付けはしたが、伝えたい内容はそれだけだった。
このまま素早く返信していいのか、それをしばらく迷ったが、マサキは結局すぐに送信ボタンを押してしまっていた。
「…ふぅ」
ヤニで汚れきった天井を見上げ、ため息を吐く。
視界に入る土壁も、カーテンも、窓枠も、何もかもが茶色く汚れていた。
住人の心を表しているかのように。
飲みかけの水が入ったペットボトルをひっつかみ、中身を煽ると、マサキはまた携帯電話に目を戻した。
送信から五分ほど経っている。
「…」
指先が勝手に動き、勝手にセンター問い合わせを押していた。
【新着メールはありません。】
(いやいや、どんだけ急かしてんだよ俺はよ)
当たり前だろう結果にガッカリしつつ、自分の期待の大きさに気付いた。
もはや完全に恋をしている。
(メールが来たらすぐ解るようにすっかね)ユミ用の受信フォルダ、それを新設しようとし、マサキは動きを止めた。
「…あ」
低性能の携帯電話、時間差で入力した反応が出る時がある為、ボタンを連打するとたまになる。
目的よりもひとつ先へ進んでしまうという事が。
「……」
ヒロコのフォルダ。
そこにヒロコから最後に貰ったメールが表示されていた
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