もえ

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ふらり、とクッションと枕に預けていた体重を緩め、マサキは上半身を起き上がらせた。 まったりと、気だるさが全身を覆っている。 タバコを吸っていないのに口の中が苦く、そして酸っぱかった。 (…ヒロコはいなくなってんだぞ?死んでるかもしんねえんだぞ?) なのに何をやっている。 (…ヒロコは俺に好意を持ってくれてたんだぞ?) それをただ捨て置くのか。 (…ヒロコは大切な存在なんだって、てめえも理解出来たんじゃねえのか?) なのに一人だけ恋愛に一喜一憂しているのか。 自問自答。 ホントにそうか自信が持てない。 質問している自身、答えている自身、そのどちらも曖昧で、そのどちらもヒロコがしているように錯覚してしまう。 あの日、あの時、あの場所、あの空気、あの行動、あの判断、あの結果。 何かひとつだけが少し変わっていたのなら、変わらない日常を過ごせていたかもしれない。 未来の無い絶望的に自堕落な毎日を。 「…それが」 だが、それが幸せの一端だと言えたのかもしれない。 「ぅぶぅっ!?」 唐突なそれに、マサキは急いでゴミ箱を引き寄せた。 そのまま顔面を入り口に押し付け、込み上げたモノを吐瀉する。 びちゃびちゃと、カラオケ店で食べた残骸がゴミ箱に広げられたビニール袋の上に舞う。 「ぅーっ…ふーっ…ふーっ…」 数秒か、数十秒か。 その感覚と反応と行動はしばらく続いた。 「っつ、ぁーっ…」 口の中に残ったモノをツバでまとめて吐き付け、マサキは唇をティッシュで拭った。 芳香剤で消しきれないタバコの臭いが充満している部屋、それに別のすえたものが混ざっていく。 めまいを感じつつ、マサキはタバコに火を着けた。 (…ヒドすぎるな、ヒドすぎるだろコイツ)自分が馬鹿らしい。 タバコで更に胃を刺激させながら、マサキは携帯電話に目を配せた。 開いたままでおいた画面、それが発光している。 『ヴィオーン、ヴィオーン』 と、遅れて音が鳴った。 確認する。 ユミからのメールだ。 (…やっぱり、俺、生きてえよ、ヒロコ) たとえ、それが生き続ける汚さだったとしても。 (…永劫忘れるって事もねえよ、多分) たとえ、それが自分をごまかしているだけだとしても。 今いない存在、体温も感触も確かめられない存在。 それを振り払うのに、ユミからのメールは十分過ぎる理由になった。 壊れ出している自分、それを救えるのは今はユミしか有り得ない、そう思えた
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