いろづき

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いろづき

夜。 空の暗幕には、穴を開けたように星々が散りばめられている。 静謐な空気。 澄んだ空気。 凍てつく空気。 残酷な空気。 世界に広がり、漂う死の空気。 人の命の数だけ輝くという星。 その星がひとつ落ちた。 地球上のどこかで誰かが死んだという事らしい。 さして時間も待たず。 また星が流れる。 そしてまた。 また。 次々と星が降り注いでいく。 地面目指してではない。 流れ星は半球の空、その表面を滑っていた。 いや。 「…コレは…ホントに流れ星なのか…?」 窓の外を眺めていたマサキがついに呟く。 星屑の群れは、死に様を主張するように尻から尾を引く。 それが。 それが消えない。 寝ぼけ眼のまま、だがマサキは自身の体が恐怖に目覚めていくのを感じていた。 黒いキャンバス、そこに死んでゆく星と人間の死骸。 その線が消えない。 黒い紙に書き込まれた白マジックの線がそのまま残り、また新しく書き足されていくように。 星の通った軌跡が輝いたまま夜の空を引っかき、その傷が癒える間も、癒える様子もないまま、また次の一撃が加えられる。 「…」 星が落ちる音が聞こえる。 そうマサキは錯覚してしまった。 見ている間も、夜空はどんどん白く変わっていく。 白線は、やがて、黒い天井の半分以上を汚していた。 「…終わり、かコレが」 白と黒に分断された空。 それを見上げつつ、マサキは身震いをした。 流星達。 ヒロコがいなくなった時もこうだったのだろうか。 彼女がいなくなった時も、自分が気付けなかっただけで、同じように流れ星が見られたのかもしれない。 「…ああ、そうだ」 それだけではない。 今落ちた星はユミの命かもしれない。 次に落ちるのは自分の命かもしれない。 いや、もしかしたら自分はもう死んでいるのかもしれない。 ようやく、その光景に圧倒され、マサキは息を大きく吸い、ゆっくりと目を瞑った。 寒気がする。 寒気が。 自分を絶対の死へと導いてくれる、穏やかな寒気が。
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