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ボロボロの倉庫。
いや、倉庫などという立派なものではない。
扉意外の三方を棚で囲われたそれは、床面積が三畳あるかどうかの狭さである。
良いところ、物置といえる位か。
「まあ、俺は例の如く、優木まおみのっすよ。まあ、まだ届いてないけど!」
狭い中に置かれたパイプ椅子に座りつつ、マサキはカレンダーの話題と煙を吐き返した。
「お前、まおみん事ホント好っきやな」
肩が触れ合うような距離、マサキと並列に座っている桑田も白い気体をもわりと漏らした。
白煙は黄色く汚れた壁、ミニ冷蔵庫、様々な札と機材の表面に当たり、広がっていく。
古くからあるパチンコ屋の休憩室、金が掛けられていない部分などこんなものである。
「俺はアレや、昔から笑点のヤツって決めてるから、来年もそれやな」
「シブいっつか、ジジ臭い趣味してるっすね、桑田さん」
「うっさいほっとけや」
缶コーヒーをぐい、と最後まで傾け、桑田が大きなゲップを鳴らした。
「で、金なんとかなるんか?」
「なんねぇっつってんしょ、面倒臭え」
「なんや、シケてんなあ」
ガタリ、と組み替えた足がタワー型の古い灰皿を蹴る。
小さく揺れるそれに合わせ、黄色く濁った消火用水の表面も波立つ。
ぴちゃり、と跳ね上がったそれが桑田の紺のズボンを汚したが、彼はそれを気にしなかった。
ズボンはマサキと同じ、というよりも、店員の制服である為、少しくらい目立たない汚れが付こうとも、どうでもいいのだろう。
「しっかし、最近ホント面白い事無いわあ」
「そりゃアンタ、パチンコ打ちに行く金無いからじゃないんすか」
「まあ、それもあるけどな」
と、一瞬桑田の表情が陰ったように見えた。
何か、というワケではない。
ただの瞬間、それを感じとれた、錯覚したというだけだが。
「桑田さん、なんかあんすか?」
マサキはさして興味も持たずに話を振った。
「ん…ん、まあ俺でも悩み事くらい少しはあるやんか」
ゴツい体格に、ゴリラのような見た目に似合わない言葉を、桑田はぼそりと残した。
マサキが黙り、先を促している事を悟ると、彼は繋げる。
「内緒やけどな、俺な、ここ辞めようかな思ってんやん?」
「え…マジすか?」
マサキの反応は飾りでなく、素直なものだった。
副主任と女の子、それ以外に仲が良いと言えるのはこの男しかいないからだ。
ふぅ、とマサキと桑田は同時にため息を吐いた。
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