いろづき

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コンビニエンスストア。 田舎町に於いてそれは名前の通り、色々と便利な役割を果たす。 郵便局。 食堂。 駄菓子屋。 本屋。 ゲーム屋。 甘味どころ。 そして待ち合わせ場所。 流動の激しい国道の傍、だが田んぼが散見する発展しきれないそこに、それは眩く建っていた。 「…ふぅ」 マサキは開けた車の窓から煙を吐き流す。 こうして、どの位待っているだろう。 タバコを吸ってはエチケットキャンディを噛み、またタバコを吸う。 決して苛立ってはいなかった。 待ち合わせ場所に30分以上早く到着してしまった自分が馬鹿なだけだからだ。 (…まだかな) そう思ったのは、そう想ったのは何度目だろうか。 薄い月明かりをはねのけ、明るく照らすその店の前。 何やら動く、見覚えのある影が、光が見えた。 パァッと、隠しきれない嬉しさに顔面をくしゃくしゃにしながら、マサキは軽く手を挙げる。 「おっつかれ~っす」 「うん、こんばんわぁ」 何よりも輝くそれは、マサキの手振りに応えた。 「でもマジでいいんすか?俺のボロ車で」 軽自動車、良し悪しなど解らず、興味も無いそれは自分の判断からしても明らかにダサい。 安さだけを優先させた、ただ乗る目的だけのもの。それにユミを乗せるなど気が引けた。 こんな事にならないよう、もう少しまともな車に乗るようにすれば良かった、そんな気恥ずかしさと情けなさで胸がキリキリと痛む。 「え?全然大丈夫だよ、安全運転だけしてくれたら、そんなの気にしないから」 「…まあ、そりゃこんな可愛い女の子が乗ってんなら、慎重には運転しますよ」 ニコリと、笑顔の残像を感じさせながら、ユミは助手席に乗り込んだ。 マサキは軽く奥歯を噛み、車を発進させる。 「でもさぁ、アタシ歌とか得意じゃないよ?カラオケ行ったのなんて一年位は前だし」 「良いんすよ、カラオケに行きたいっつーよか、津島さんと二人で静かに邪魔されずに話したいってだけすから」 隣に人を乗せて走るなど慣れていない。 それが、好きな女なら尚更だ。 『びしり』 と、音を錯覚する。 解っている。 (ヒロコの…事だってんだろ、てめえ) もう一人の自分に唾棄し、胃の痛みを我慢した。 酸っぱいものが込み上げる。 胃酸だけでなく、ユミへの甘酸っぱい想いとヒロコの残滓が。 「やっぱり小日向くん、上手いよねぇ」 おだてるのが。 そういう意味だろう。 変わる世界に踊らされてるのはマサキ自身だというのに
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