いろづき

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最近桑田とも来たカラオケ店。 薄暗いといえるほど暗くは無く、かといって明るいといえるほど強い光が包んでいるワケでもない。 その個室は微妙な光量に支配され、独特の空気を垂れ流していた。 相対する人間が変わった事は当然大きい。 左隣にいる津島との距離はまま離れているが、それは遥か彼方にも、また、限りなく近くにも感じられた。 お決まりの曲。 お決まりのバラード。 それを順繰りに歌っていく。 多少選曲の差異はあるといえ、男が一緒の時とそれは変わらなかった。 本当にツマらない人間だ。 「ゴメンね、タバコ吸わせてもらっちって」 ふわりと煙を吐き、マサキは歌本の機械を机に置いた。 ガラスの机、その上に置かれた2つのグラスがカタリと音を立てる。 「いいよぉ、慣れてますから」 笑うユミの言葉の裏、それを邪推し、また沈む。 彼氏がタバコを吸う、という事だろう。 職場で、という可能性も無くはないが、今時喫煙所以外でタバコを吸える会社などほとんど無い。 「でも、小日向くんって歌うと全然声違ってるよね」 「仕方ないんっすよ、裏声みてえにならんと歌えないんっすもん、地声じゃ低過ぎて音程取れませんし」 すす、と。 気付いてない振りをしたが、マサキはユミが自分に少しだけ近付いたのを確認していた。 数センチ。 たったそれだけ近くなっただけで、心臓が素早くなる。 姿勢を直す振りをし、マサキも少しだけ彼女に近寄った。 こっそりとするそれを咎めるように、ぎゅう、と革張りのソファが唸る。 「でも私は別に変じゃないと思うけどねぇ」 ユミはコチラを見つつ、アイスティーに口を付けた。 薄くてキレイな唇が潤いに輝く。 ユミのノドと共、マサキは自分のそれがツバを飲み込むのを感じていた。 「何?どうしたぁ?」 ニヤリという、少し意地悪な口調のそれに少しだけ気圧されながら、マサキはタバコの灰を灰皿に落とす。 「いやね、そりゃこんな可愛い子と一緒にいられたら緊張くらいしますって」 「子…って、アタシはオバさんじゃん」 「いや、それだけは認めらんないっすよ、マジで。俺が好きになれるんなら年齢は関係なく女の子なんすから」 「…ありがと、そういう事にしておく」 と、マサキは眉を潜めた。 今、流れで告白のような部分があった気がしたが、特にユミは気にしていないようだ。 彼女がコチラをそんな対象として見ていない、そういう事だろうか
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