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すすりすすりと、茶色い水面が波立ち、安っぽく、だが素晴らしく香ばしい匂いが散らばる。
ユミの唇にゆっくりとコーヒーが吸い込まれるのを横目、マサキは震えを感じていた。
(なんて…?この人…今、なんてよ?)
「ん、あのね」
ゴクリと鳴らしながら、ユミは続ける。
「最近、この近くでなんか人がいなくなってるらしいのね、近くっていってもこの藤枝市だけじゃないんだけど」
(どういう事だ…なんで、この人が言ってんのって…まさか)
そうとしか考られなかった。
テレビのニュースにかじりついていたワケではないが、それでも、地元で大々的に取り上げられているのなら、どこかで見聞きするハズである。
それが何故、何故。
(なんでよ?…なんでこんな近くからこんなに話を聞く?)
当然、意味が解らず困惑していた。
こちらが喋らずにいるのを、聞く姿勢に入ったと取ってか、ユミは返答を待たずに続ける。
「それもなんかね、家出とかじゃないみたいでさぁ、なんて言うの?…えっと、ホラ…あの神社とかであるとかっていうホラ…」
「…神隠し、っすか?」
「あっ、そうそうそれ、その神隠しっていうやつ」
やはり、とマサキは長い息を吐き出した。
謎の失踪、それは最早予想のつく出来事になってしまっている。
人が突然行方をくらまし、その消息が掴めなくなるなど、そうそうある事では勿論ない。
「そうそう、それでね、アタシと最初に会った時あるでしょ?あの川の場所」
「ああ、はい」
気が入らず、失礼だろう生返事になってしまったが、ユミはやはりそれを気にしなかった。
この話をしたくて仕方がないのかもしれない。
「アレね、あそこも実は、人がいなくなってる場所だったのね?アタシは、アタシは…」
(…ん?)
と、マサキはユミを見やった。
急に動きが止まり、何やら考え込んでいるようなそれは、時間にすれば三秒にも足りない沈黙だったろうが、違和感を生み出すには充分すぎた。
こちらの視線、それを受け、ユミは軽く身体を揺らせた。
今まで見た事の無い様子である。
何かに動揺している、端的にそう見えた。
「…えと、アタシはホラ、その話が気になったからね、友達から聞いてたし、だからそこに行ったの、うん」
何か、明らかに文体が変わっている。
(それに気が付くとか、ホントに細かいウザい野郎だなてめえは)
自分を呪いつつ、マサキはユミに向けた瞳を細くさせた
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