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こちらが静かに見つめる中、ユミは再びコーヒーを口元に運んだ。
湯気がゆらりとその表情を陰らせる。
波のように掻き消えるそれの向こうに見えるユミは、何かを頭の中で整理している、そう見えた。
「ふぅ…ああ、えっと何だっけ?」
細めた瞳は既に戻してある。
恐らく、コチラが怪訝そうにしたのに彼女は気が付いていないだろう。
「川の話っすよね、初めて会った」
「ああ、そうそう…川、川だった。そこでも起きたっていうのがね、その神隠しなんだけど」
そこで起きた失踪事件。
その単語にマサキは違和感を覚えた。
(失踪してんのに、いなくなったってのに、どこにいるか解らないってのに、それがそこで起きたなんて何で解る?)
矛盾している。
その時、その現場、その状況に立ち会えなかったのなら、それはそう表現してはいけないハズの単語だった。
(警察がそう言うんだとしても違う、許せねえ…)
だが、とマサキは手を組み合わせてすり合わせた。
(そこで起きた神隠し…俺ならそう表現しても許される)
ヒロコがいなくなった時、いなくなった場所、いなくなった状況、『そこ』にいた自分なら。
「なんかね、被害にあったのは二人組みらしいんだけど、釣りしてて、しばらく釣りに集中してたら一人いなくなったんだって」
「いなくなった…ってどういうんです?」
「うん、一人が釣りしてたら急にいなくなって…それだけ。それで後はもう見つからないって」
「警察には言ったんすか、それって」
マサキは組んでいた手を解き、またタバコに手を伸ばした。
「え、言った…って、アタシの話じゃないよ?」
(……ん?)
と、可能性に気付き、何かを言い掛けたが、マサキは別の音を吐き出した。
「解ってるっすよ。そうじゃなくって、その人は…って事っすよ」
「あ、ああその子達ね、それなら警察には言ったみたい。けど、やっぱり見つかってないんだって。事件に関わりそうでもないからあまり捜査もしてもらえないとか」
「…ま、アイツら警察なんてそんなもんでしょうね」
「…小日向くん、警察でイヤな事でもあった?」
ユミの問い掛けにマサキは首を振った。
事件の可能性の芽、それを全て捜査する事など無謀、今のはそういう事である。
ユミの話はとても曖昧だったが、そのお陰でマサキの興味は強く引かれた。
前後に怪奇じみた表現があるワケでも事件性が臭える状況があるワケでもない。
ならそれは。
(俺と同じかもしれない)
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