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「でね、何個か聞いた事あるんだけどね、今話したみたいなのがこの辺で沢山起きてるんだって」
かりっ、と爪をこすらせ、マサキは首をグルグルと回した。
妙な緊張感で筋肉が疲れている。
だが、と。
マサキは顔をユミへ向け、目を細めた。
会話に違和感はあるが、それで信用が置けなくなった、という事ではない。
ユミに向けたその顔に表立ったのは、疑心ではなく真剣さだった。
「あのっすね、あのね」
「ん?」
言いよどむこちらにユミが首を傾げる。
可愛いらしさを更に上昇させるその仕草に、マサキは別の意味で気圧されるのが解った。
恥ずかしさと恋心で真っ赤に染まろうとする肌。
躊躇い、音を出す事を拒むノド。
下を向き、照れ隠しに逃げようとする心。
それらを必死に抑えつけ、整合させる。
それが完了するまでの数秒後、イヤな汗がジンワリと体中から現れていた。
「あぁ…もうアレ、アレっすわ。ぶっちゃけ聞きますけど、あのね、その事件ってもしかして、間違ってたらアレっすけどね、もしかしたら津島さんの体験した話…ではない?」
結局、言葉はまとまりもつかずただ吐き出されていた。
だが、言いたい事の概要は詰まっているのだから、とマサキは少しだけ満足もしていた。
「…え?…えぇっと」
今度はユミがまた言いよどむ。
またタバコに火を着け、最初の煙を吐き出しながら、マサキは戸惑った様子のユミに続ける。
「なんかっすね、微妙に言葉が停滞するってか、さっきの話で聞き返された、アタシの話?的なとことかっすね、それがどうも体験談を噛み砕いてんのかなぁって…うん、そう思ったんすよね、うん」
つらつらとしたそれに、またユミがコーヒーを飲み込む。
すする瞬間の憂いある顔、それはいつもと違った魅力を感じさせた。
かたり、とソーサーを鳴らし、ユミがこちらに向き直る。
「…なんか、スゴいね小日向くんって」
じわり、とユミの身体がソファーを滑る。
別に『そういった』意味のある動きでは無いようだが、それでも、恋した女がこちらに身を近付けた、という事実に心臓は高鳴った。
「うん、うん」
小さく、何かを確認するというよりは、それはただのクセのようであるが、ユミは何度か自身に言い聞かせるように頷く。
「うん…そう、さっきの川での話はそう、アタシの話なんだよね…うん」
その悲しそうな表情にマサキは胸を掴まれた。
そして、ユミは決意したように言葉を繋げた
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