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「知ってるよ。いつもそんな顔してたもん」
「そんな顔って?」
凛はクスクスと笑いながら、隣に座れと俺の手を引っ張る。
俺が座ったのを見てから、
「あの日からもう三年も経ったのね。あの頃は大人なんか嫌いでやんちゃばっかしてたのに、もう私はその嫌いな大人になろうとしているのよ。時の流れは恐ろしいわ」
「ごめん、話がわからないんだけど……」
「あの日、和人に会わなかったら、私はもっとイヤな大人になってたと思うの」
「うん」
「和人を追いかけて、桜坂学園に行ったりしなかったと思うの」
「うん」
「桜坂学園に行かなかったら、自分が何になりたいとか考えなかった。こうやって大学に行くなんて……。感謝してるのよ、和人には」
凛はいったんそこで言葉を切り、立ち上がって俺の前に立つ。
凛の長い髪が風になびいて、表情が見えない。
「私はしばらく和人の傍にはいれないけど、それでも、和人を愛していてもいいのかしら?」
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