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太陽のような満面の笑みを溢すおっちゃんとは裏腹に、真剣な眼差しのデセアドは勢い良く直角に頭を下げた。
「此処で働かせて下さい!!」
「…………」
完全に意表を突かれたおっちゃんの顔は、瞬きする瞼以外硬直している。
開店準備で慌ただしいはずの市場だが、その空間だけはまるで再生されているDVDを一時停止したように時が止まる。
そして、一時停止はおっちゃんの返事を皮切りに解かれる。
「こっちも人出が足りなくて困ってたところだ。助かったぜ。ヨロシクな」
またおっちゃんは笑顔になると、頭を上げたデセアドにもそれは移った。
まるで赤みを帯びた太陽の光を水面が反射するように……。
次に童顔の少年は母親の方を見る。
母親からしてみたら話した事も無い、名も知らぬ存在だが、゛似た者夫婦゛と言ったところだろうか?
生憎、母親もそんな小さな人間ではないらしく、ニコッと笑った。
「ヨロシクね。えっと……」
「デセア……デセスです。ヨロシクお願いします」
「デセスか。今日は流石に無理だから、そうだな……明日6時にまた来てくれ。ヨロシクな。デセス」
三人の間にまた優しく、温かな笑みが溢れる。
こうして、デセアドの第2の人生は幕を開けた。
確かな充実した日々と共に偽りの日々の幕が……。
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