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今日も大行列の波が引いて、仕事を終えたデセスは額の汗を吹きながら一息を付く。
夕焼けが眩しい中、おっちゃんもおばちゃんも閉店作業をしていた時ガラガラと引き戸の開く音がした。
「父さん、母さん、゛デセス゛。ご飯の準備出来たから早く!」
呼び捨てにしたのは同い年だからでは無く、深い友達だからでも無く、二人が交際をしていたからだ。
告白は約1年前。
「フリアンの事が好きです。僕で良ければ付き合って下さい」
「……」
その日も魔法を教えるつもりでデセスと共に公園に行ったフリアンは、まるでメデューサに睨まれて石になったように硬直した。
視線の先には真っ直ぐに此方を見つめるクリッとした瞳。
「俺にいつも優しく魔法を教えてくれて、友達を、そして何より両親を大切にする貴方に惚れました。お願いします」
フリアンの頬は急激に紅潮し、恥ずかしさから視線を逸らすが、デセスの真っ直ぐな視線は変わらない。
しかし、それは虚勢。
内心では張り裂けそうな程に心臓が荒々しく脈を打っている。
それは恐らくフリアンも同じだろう。
永遠の様に感じる時に身を任せる二人を、一陣の風が変わらないピンクのショートボブと黒い髪を緩やかに揺らすと、フリアンは乱れた揉み上げを片手で耳に掛け、漸く口を開いた。
「……あ、あの……えっと……その……わ、私も……初めて会った時から、好き……でした」
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